◆ 03
みちるが今どこにいるのか、ぼくはその日からずっと探し続けた。
出版社に電話をかけ、迷惑そうだが、ちょっとだけ親切な中年のオッサンからやや詳しい話を聴く事もできた。
声だけだったら、ぼくはどんなでも素直に、おぼつかなく、真摯になれた。
オッサンなんて騙すのは簡単。ああいうヒトたちというのは、忙しいと言っている奴ほど頼られたがっている。
相手を持ち上げながらわずかな卑屈さをのぞかせて、てらいのない真っ正直さを装いつつ小学生のように『お願い』をすれば、まあ、たいがいはそのお願いを叶えてくれる。
「お忙しいところ、本当にありがとうございました」
言っている途中で「はい、はい」という声と共に電話が切れた。
ぼくは口角に笑みとも言える引きつりを残したまま、受話器に向かい
「死ね」
軽く、言い捨てた。
出版社のどこかのデスクで、胸を押さえてつっぷしている脂ぎった中年男の断末魔がちらりと脳裏をよぎった。
みちるが住んでいただろう町の役場にも電話して、住んでいる所の手がかりがないかも尋ねてみた。
役所の人間は「個人情報ですから」と木で鼻をくくったような返答しかよこさなかったが、それでも地元の図書館に来ればもう少し情報があるかも知れない、とは教えてくれた。
ぼくはすぐにその街に向かった。