◆ 02
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僕は目立たない、ごく普通の人間だと思う。
しかし、心の中はグルグルと不平不満が渦巻き、他の人たちと自分はどこか違うのだと信じていた。ずっと幼い頃から。
ある時には自分は神に選ばれた特別な存在だという誇らしさで胸が一杯になり、またある時には俺は最低な存在で社会の爪弾き者だと自己嫌悪に陥る。目の前のショウウィンドウにちらと自らの姿が映ろうものならば、それを拳でたたき割りたくなるくらい、その落ち込みは酷い。
どちらかというと消極的で、ホームでは結局満員電車には乗れないタイプ。
そうして、発車した電車の後尾ランプをじっと見つめたまま、その電車に乗る全ての人間に呪いを吐く。
次にホームに上ってきた人びとは僕の目の前を通り過ぎるたびに、一人ひとり撃ち殺される。もちろん、心の中の銃で。
僕は通行人の身なりや表情、僕に対する目線のくれ方でそのニンゲンを一瞬のうちに識別し、そして、簡易裁判によって判決を下す。コイツは、死刑だ、コイツは許す、僕のサイドにいてもいい。コイツは即撃ち殺す。コイツ……今睨みやがった。コイツはあまりにも脳天気な笑い方、死刑。コイツらは楽しそうに腕を組んでいる、男は遺し、女を撃つ。
最初に乗れなかった電車を見送ってから次のを待つ間も、僕の顔色は多分、全然変わっていない。つぶやきも口から洩れていないだろう。
僕は毎朝バイト先の会社に向かうたびに、耳にしっかりとイヤホンをはめて何でもいいから曲を流しながら、罪もないあまたの人々を射殺しては気を紛らわしていた。
とある機器販売メーカーの技術部で、ごく普通のアルバイターとして日を送っていた。
少し愛想がなくて気がきかない、それでも言われたことはきちんとこなす、
ごく普通の23歳として。
これが普通と言わずして、何だというのだろう。
それなのに。
あの日、みちると会った瞬間から少しずつ、僕の軌道はくるい始めた。