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その前から、地域のコミュニティーではいくつか噂にはなっていたようだ。
私もあまり気にしたことはなかったし、それほどおおっぴらに言いふらされるような内容でもなかったので。
タドコロ・ミチルさんというヘルパーさんに、ぜひ最後にお話を聞いて頂きたい。
そういった高齢者や施設担当者がぽつりぽつりと、役場や社会福祉協議会に相談に訪れるようになっていた、という。
みちるはまだ若く、自分でも先行きの見えていない経験の浅いヘルパーだったし、自分がいったい相手に対して何をしているか、まるで意識したことはなかった。
ヘルパーとして当然のこと。
相手の話を聞き、共感し、こちらからは特に説教じみた話もせずに相手に寄り添い続け、癒しを与える。
ほとんどの人が、彼女に逢えてよかったと最期に言った。
ことばの紡げない者たちは、ただ涙の溜まった目で彼女に笑いかけ、あるいは皺だらけの手で彼女の指先をそっと握って、そのまま旅立っていたった。
なのに彼女は。
甲斐の無い仕事だと、逆に感じていた。




