◆ 05
図書館はぼくの街のよりもずいぶんとこじんまりとして、低く陰気な山陰に寄りそうように建っていた。暗いレンガ色の外壁がさらに暗い雰囲気だった。蔵書も少なく、しかも湿っぽい空気に包まれていた。
それでも、地域の資料類は豊富だった。ぼくが以前借りた本と同じものもあった。
やはり、地元ではその当時かなり有名な話だったらしい。
ぼくは偶然、図書館で吸い寄せられるように借りた本で知っただけだったが、こんなに衝撃的なことがどうして全国的に大きな話題にならなかったのか、本当に不思議に思えた。
まあ、ぼくが借りた本は大手の出版社から出ていたのだから、例え囲み記事程度でも、みちるもいったんは世の中に浮かびあがってきていたということになる。
それでも、地元といえどもそれはすでに昔話の部類だった。
強烈な出来事になればなるほど、忘れられるのもあっという間なのか。
みちるは、ぼくとは正反対のひとだった。
ぼくは無差別に、無作為に、無計画に人をころし、
彼女は手あたりしだいの人びとを助けて歩いた。死にゆく人びとを。
元々は何が発端だったかはハッキリしない。
大きな転機、彼女のちからが白日のもとに晒されたのは、あの大きな鉄道事故の時だった。




