4-11
一瞬の閃光がまぶたを刺激し、その後に遅れてやってきた雷鳴が鼓膜を震わせる。
朦朧とした意識の中、日村はゆっくりと目を開いた。
「……うっ!」
まぶたをこすろうと動かした右手に鈍痛が走る。不意の痛みに耐えかねて体をひねると今度は頸部がひどく痛んだ。続けて襲い来る激痛がおぼろげだった日村の意識を急速に叩き起こす。
日村は痛む首を無理やりひねって倒れたままに左方を見た。
「……た、高井」
激しい雨音のせいか、壁際に横たわる仲間の口から呼吸らしきものは聞こえない。心なしか体つきも普段より弱々しく見える。
日村は不安に駆られ、這うようにして傍に体を寄せた。
「……おい、高井。大丈夫か? おい」
日村が左手で体をゆすると眉をしかめて高井梓は目を覚ました。
「……日、村さん」
「……良かった。大丈夫か? 血ぃ出てるぞ」
こめかみに垂れる細い血の筋を見て日村が尋ねる。梓は傷口に軽く手を触れ、固まり始めている血を指にとると、それを見て安堵の息を漏らした。
「何とか、大丈夫そうです」
「無茶しやがって。死んだかと思ったぞ」
「俺もですよ。走馬灯見えました」
軽く咳をして高井は体を起こした。
「でも、これだけで済んだってことは、あの剣、本物じゃなかったんですね」
「らしいな」
日村はすぐ脇にいびつに曲がった眼鏡のフレームを見つけて山際の存在を思い出した。よく見ると彼らとは少し離れた廊下の真ん中にうつ伏せで倒れている山際がいる。
日村は痛みを堪えて立ち上がると、傍まで歩み寄って山際の体をゆすった。
「おい、山際。起きろ」
「大丈夫ですか?」
「……駄目だな。完全にのびてる」
日村の言葉どおり、仰向けにされて顔を軽くはたかれても山際が起きる気配は一向になかった。唯一無防備な状態で奇襲を受けたのだからダメージが深いのも無理はないだろう。
ともあれ死んでいるわけではないのだ。日村は側に転がっていたライターを拾い上げると懐からしけたタバコを取り出し、火をつけた。
と、周囲を見渡していた高井がふとあることに気づき、誰にともなくポツリとつぶやいた。
「シゲさんと、水野さんは?」
高井に言われ、改めて日村は周囲を見渡してみた。
水浸しの廊下。窓を叩く激しい雨音。時折きらめき、とどろく雷鳴。そこに二人の姿はない。
火をつけたばかりのタバコが日村の口元から落下した。