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灰色の羊  作者: 御目越太陽
第四章『灰色、同じ色』
32/38

4-8

 最上階は暗かった。通路に明かりらしい明かりは無く、時折窓外で明滅する空が、わずかな間だけ城内を強くはっきりと照らし出す。雷光を受けて輝く床には、よく見ると大小無数の水溜りが点在しており、そのせいか他の階に比べると不自然なまでに高い湿度がその階層に異様な空気を作り上げている。


 その入り口、階下へと続く階段の踊り場に騎士がいた。全身を覆う白銀の甲冑、それをさらに覆うように首から垂れる真紅のマント。右手のランスは武器と言うよりただ手に持っているというだけで、腰に提げた長剣のきらびやかな装飾も今の彼にとってはかえってその虚しさを助長させてしまっている。


 しかし、ふらつく体を手すりで支えると、白銀の騎士は深い安堵のため息を漏らした。


 ようやく、たどり着いた。……あと一歩だ。


 永きに渡る戦いも、いよいよ終わりの時を迎えようとしている。思えば遠い道のりだった。立ちはだかる敵をなぎ倒し、築いた死体の山を踏み越えて、ようやくここまでたどり着くことが出来たのだ。


 もうすぐ、もうすぐ終わる。


 騎士は手すりから手を離し、自らの足で床を踏みしめた。希望をもたらす英雄が足元もおぼつかないのでは締まらない。


 待っていろ。すぐに――。


 ゆっくりと一歩を踏み出した騎士は足先にかすかな揺れを感じ不意に動きを止めた。


 徐々に大きくなる振動。瞬く間に静寂は終わり、獣の咆哮を思わせる異様な音が揺れと共に騎士の下へと近づいてくる。


 直後、騎士の目の前を巨大な何かが通過した。白く小さなしぶきを撒き散らし、この世の全てを飲み込まんとする怒涛の勢いでうねりを上げ、その塊は騎士の眼前をあっという間に埋め尽くすと次の瞬間には視界の外へと消えていく。


 突然の出来事に騎士は身動き一つ取らず立ち尽くし、やがて両の手を力強く握り締めた。


 目の前をかすめていった謎の塊への恐怖からか?


 違う。


 目前の終着に油断し敵の存在に気づけなかった自身への怒りか?


 違う。


 騎士の目は、はっきりと捉えていたのだ。眼前にうごめく巨大な水の塊を。その塊に飲まれ為す術なく激流の中に消えていく仲間たちの姿を。


 握り締めた両の拳がわなわなと震えた。全身に飛び散ったしぶきがぽとりぽとりと床に落ちる。


 兜を伝いフェイスカバーの上を水が一筋、滑り落ちていった。


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