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「確かなのか?」
日村に問われて山際は自信なさげに頭をかいた。
「能力者かって言われりゃ断言できねぇけど、可能性は充分ある、と思うぜ……多分」
徐々に声が小さくなっていくものの、山際の意見には彼なりの根拠があった。
運動場、体育館、北校舎に部室棟、敷地内のあらゆる場所に視線を巡らせた山際だったが能力者の影はおろか無事に避難できている人間は一人として見つけることが出来なかった。今彼らのいる南校舎以外の場所に能力者が潜伏している可能性は極めて低いと言って良いだろう。一階から三階までは茂野を捜索したときすでに一通り目を通している。何者かが潜んでいるとすればこの四階をおいて他に無いのだ。
では何故潜伏場所まで特定することが出来たのか。答えは簡単である。
山際は見ていたのだ。日村に首根っこを掴まれ引き倒される刹那、騎士たちの組む円陣の中心、そこでうずくまる不審な人影を、彼の〈千里眼〉は確かに捉えていたのだ。
「守られてんのか囲まれてんのかは分かんねぇけど、怪しい奴がいて、そいつの周りにあの変な騎士もどきも集まってる。こりゃあ何かあるって思ったほうが自然なんじゃねぇの?」
「そうか」
山際の言葉に日村は腕を組み、「どう思う?」と他の三人に意見を求めた。
「……他に当てもないし、接触してみるのも良いんじゃないですか?」
と、最初に口を開いたのは高井だった。次いで日村が思案顔の水野を見ると、「異論は無い」とぶっきらぼうな返事が返ってくる。
二人の返事にうなずくと、日村は黙ってうつむいている茂野に再び尋ねた。
「シゲ、お前の意見は?」
日村に見つめられ茂野はゆっくり目を閉じた。
ふと気が付けばいつの間にか箱の心の声が聞こえなくなっている。仲間と合流できたことへの安堵感が茂野の〈悟り〉を抑制していると言う理由もあるが、もっとも大きな要因は箱の心が声を発することも出来ないほどに弱っているということだ。
茂野としては、できれば穏便に済ませたかった。騎士への攻撃は箱の心を閉ざしてしまいかねない。箱との対話を望むなら手荒なまねは避けるべきだろう。
しかし、状況はそれを許さぬほどに切迫している。
ややあって、茂野は重いまぶたを押し上げた。
「……あ、あそ、あそこに居るのが、は、箱の能力者でま、間違いない、と、思う。……き、き、騎士は、きっと、は、は、箱がじ、自分を守るために、つつ、作ったま、幻だ」
「だから倒すなってか?」
不意に横槍を入れられ茂野がぶんぶんと横に首を振った。
「黙ってろ山際」
茶化す山際に日村が釘を刺す。日村の言葉で再び注目が集まり茂野はまたうつむいた。
騎士を倒すことは箱に残されたわずかな希望を摘み取ってしまうことになるかもしれない。
その結果、箱の心は更なる絶望へと追いやられてしまうかもしれない。
それでも、
「ま、ま、幻はか、彼をす、す、救ったりは、しない。た、た、例えま、幻の中で、こ、こど、孤独をわ、忘れても、そ、そ、それはわ、忘れてる、忘れてるだけで、こ、孤独なことに、か、変わりなんかないんだ。ま、幻で得た特別は、幻で作った居場所は、う、嘘なんだ。だから」
茂野は顔を上げた。どれだけどもっても、いい言葉が見つからなくても、伝えたいと言う強い気持ちが茂野の口を止めさせなかった。
そして、真剣な茂野の訴えに日村たちは黙って聞き入っていた。
「だから、騎士を、騎士を倒そう」
茂野のはっきりとした言葉に、日村は黙ってうなずいた。