30/38
4-6
暗く静かな魔城の階段を一人の騎士が上っていた。
赤子のような弱々しい足取り。伸ばした手は手すりを掴めず、倒れぬように体を預けるのが精一杯である。鎧に覆われた全身に外傷などは見られないが、背中にたれている真紅のマントが騎士の身動きと共にゆらゆらと揺れ、まるで血を流しているかのように騎士の疲労を演出している。
時間がない。急がねば。
一歩、一歩とゆっくり歩を進めながら、騎士は焦燥を噛み締めた。
刻限が迫っている。徐々に重さを増していく手足が、動くたびにぼやける思考が、無情にも彼に終わりの時を告げていた。
しかし、くず折れそうな足を踏ん張って騎士はまた一歩、歩みを進める。
急がねば。先行した部下たちは無事なのか。
途切れそうな思考を無理やり働かせ、感覚の乏しくなる手足を叩き起こし、彼はひたすらに助けを待つものの元へと足を進めた。
急がねばならない。彼がいなければ物語は始まらない、いや、終わらないのだから。