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灰色の羊  作者: 御目越太陽
第二章『暗躍』
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幕間 内藤孝太その二

 愛情のない家庭に育つことは子供にとって苦痛である。


 しかし、家庭以外の場所に生きるのも内藤にとっては苦痛だった。


 生まれもっての人見知りに加え極端な臆病さと人並み以上の羞恥心を育んで生きてきた彼には、吃音という触れられたくない個性があった。その個性を隠すために彼がとった手段は、誰とも話さないという至極シンプルなものだった。話さなければどもることもない。どもることがなければ笑われることもない。恥をかくこともない。


 そう考え、他人との接触を絶った彼は、次第に避けられ、いつしかいじめられるようになっていった。


 何を言われても何をされても文句を言わない内藤は、子供たちにとって格好のサンドバッグだった。黒板消しで頭をはたかれ、上履きや筆箱でサッカーをされ、朝礼中にパンツを下ろされ、掃除ロッカーに閉じ込められながら、内藤は思った。クズと言われても、死ねと言われても、それでも、人と話すのよりはよっぽどいい。自分はこういうキャラクターなのだ。笑われているのではない。いじられていじられて、それで笑いを取っているのだから。それが自分の役割なのだからと。


 実際のところ彼のようなサンドバッグに笑いを取る役割など与えられてはいなかった。もちろん居れば居るでいじられることはいじられるのだが、仮に彼がいなくとも教室では明るくまぶしい毎日が送られることに変わりは無いのだ。


 この当たり前の事実には当然彼自身も薄々ながら感づいていたが、彼の内にある敏感な羞恥の心がその過酷な現実から彼の目を逸らさせていたため、彼が自身の不幸を自覚することはまれだった。


 愛の無い家庭。友のいない学校。内藤の世界は苦痛であふれていた。しかし、そんな彼にも拠り所とするものがあった。それは彼が子供のとき母の当時の恋人にもらったおもちゃの箱、その中に広がる空想の世界だった。


 箱の中に詰まった人形を手に、内藤は幾度となく空想世界への旅に出た。


 そこでの内藤は勇敢な騎士だった。ランスを片手にたくさんの仲間を引き連れて、醜悪なモンスターを蹴 散らし、悪い魔法使いの待つ城から見事麗しき姫君を救い出す。


 そこでの内藤は英雄だった。彼がいなければ物語は始まらないのだ。


 そこでの時間のみが、彼に心の底からの自由を与えていた。


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