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キミに思ふ  作者: ヨミ
1/1

その一

数話で終らせる予定です。

 今日は一年に一度のクリスマス。

 この日になると王国はいろとりどりに装飾されて、祭りだったり噴水公園の前で舞踏会だったりととても賑わう。

 私はその様子を微笑ましく眺めながら幸せを感じるのだ。そして私の隣にいる無表情な男も、今私と同じ気持ちだろう。

 無表情でも一年も傍にいれば彼の気持ちぐらい分かるのだ。


「綺麗ですね、陛下」


「その呼び方やめろ。名で呼べ」


「ロクサス様、綺麗ですね。私生まれて一度もこんな綺麗な景色見たことがありませんよ」


「そうか」


 無邪気な顔でそう言えば、陛下は満足したかのように目を瞑ってその場にあったベンチに座った。私はそれに続いて陛下の隣に腰をかけて目の前に堂々と立っているクリスマスツリーを見る。

 一年前までは想像も出来なかった光景。私は昔森の中でひっそりと暮らしていて、祭りだとか舞踏会とか四季のイベントとか一切無縁だったのに今こうして昔がなかったかのようにいれるという事はとても素晴らしいことではないのだろうか。

 しかも好きな人と一緒なら尚更。

 私は世界で一番の幸せ者だ。ロクサス様、私を助けてくれてありがとう。

 そして今日はもう一つ。今日は私の――


「今日はリトの誕生日だったな」


「そうですけど、覚えていてくれたんですか?」


「将来私の妃となる奴の誕生日ぐらい覚えておかないとな」


「よく人前でそんな恥ずかしい事を……」


 きっと私の顔は真っ赤だろう。その私の反応をくつくつと楽しんでいる陛下が憎たらしい。けど、やっぱり幸せを感じてしまう。私は愛されているんだなーって。

 暗黒に広がる星を見ながら、私は陛下の手を握った。隣でちょっと驚いている陛下。普段私から手を繋いだりしないからなのだろうか。

 戸惑っている陛下が可愛くて調子に乗った私は、私の手と陛下の手を絡めていたらいきなり手首を掴まれて抱き寄せられてしまった。


「へっ陛下!!」


「そんな可愛らしい事をするな。理性が保たなくなる」


「へっ…!?」


「冗談だ」


 いや、全然冗談そうじゃないんですけど。陛下の瞳の奥には微かな熱が見える。どうしよう、今夜は危ないだろうか。今日は別々で寝たほうがいいんじゃないだろうか。

 何て雑念を考えていると、ふいに額に柔らかい感触があたった。

 私がそれに気が付くのはさほど時間が掛からなかった。


「陛下!! 今っ――」


「今日の誕生日は今までで一番最高にしてやりたいな」


 私は目の奥が熱くなるのを感じた。やばい、涙腺が崩れる。目から溢れ出した涙は、止まることを知らずに私の頬を伝って地面にぽたりと落ちていく。

 陛下は優しく微笑みながら私の目元を裾で拭ってくれていた。


「何故泣く」


「悲しくないのに涙が出るんです。おかしいですよね」


「それは嬉し涙という奴だ」


 そうか、嬉しい時にも涙は出るんだ。私は今まで一度もそんな事がなかったから分からなかった。けど、陛下が私に教えてくれた。

 人と人が喜びを分かち合うことも。支えあっていくことも。すべて陛下が教えてくれた。そして人として全部が全部分かるわけじゃないけど、そのほとんどを分かった時、私は蛹が脱皮して蝶々になるように成長するのだろう。




「私と、結婚して欲しい」


 それは魔法のような言葉だった。辺りが一瞬静かになってまたざわめきだした。陛下はそんなの気にも留めずに、どこに隠し持っていたのかポケットの中から小さい箱を取り出してゆっくりと蓋を開けた。これはもしやあのプロポーズというやつ? 私は訳の分からないまま陛下に向き直った。


「へっ……あの、陛下」


「ずっと前から結婚しようって言いたかったが、今日を特別な日にしたくて我慢していた。私にはもうお前しかいない。だから私の妃になって、今もこれから先も私を支えてくれ」


 すごい直球だったけど偽りなど一切なかった。どうしよう、私は何て答えたらいいんだろう。私は、私は陛下とずっと一緒にいたい。


「私も……私も変な言葉になっちゃいますが、陛下に支えてもらいたいです」


「それはつまり…」


「私でよかったら、陛下の妃にしてもらってもいいでしょうか?」


「当たり前だ」


 一部始終を見ていた周りの野次馬から黄色い声が上がった。恥ずかしい。今私人前でものすごく恥ずかしい事を……。嬉しいけど恥ずかしい。

 それに比べて陛下はすまし顔で、恥ずかしくないのだろうか。


「そして私とて男だ。今夜は覚悟していろ」


「ちょっと…待って、陛下それって」


「後悔はさせない」


 力強くそう言われてしまえばどうしようもない。私は飼いならされた犬みたいだ。でも私は犬じゃないから。時には仕返しだってしてみたくなるのだ。

 野次馬たちがいなくなったことをいいことに陛下の頬に唇を落とした。すると顔が赤くなる陛下。半ば強引に手を引かれて立たされると、体を抱き上げられた。

 今私やばいことをしたようなきがする。


「すまない、我慢できそうにない」


「…そんなっ」


 どうやら今宵は陛下と甘い甘い夜を過ごすことになりそうです。

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