君との距離。
誰も無口だった。咲桜里は、別にたいした事なかった。それは、それで良い。受付で、事故だから、全額自費で、支払をし(かんなに、立て替えてもらうはめになったけど)、警察からの、連絡を待つだけになった。ロビーで、三人。離れ離れに、座っていた。どう座ったら、いいのか、わからない。かんなは、俺らに、遠慮して、ずーっと、柱の影に、座っているし、何故か、咲桜里も、反対側んい座っていた。まるで、どちらに、座るか、選べというかのように、俺には、思えた。
「コーヒー飲む?」
静寂に耐えれなくなった。俺は、立ち上がり、かんなに聞いた。
「ありがとう。でも、気にしなくていいから。」
早く、帰りたいのだろう。かんなは、時間を気にしていた。
「ごめん。呼び出して。でも、他に、呼べる人いなくて。」
「いいの」
かんなは、長い脚を組み替えた。
「大丈夫。お家の事情はわかってるつもりだから」
全て、理解しているつもりなんだろう。
「助かるよ」
俺とかんなの会話を、咲桜里は、じっと、聞いていた。
「大翔。」
割り込むように、俺を呼んだ。
「喉乾いた。」
「コーヒー飲む?」
ついでのように、俺は聞いた。
「炭酸でいい。」
「わかった。」
当たり前のように、俺は、小銭をポケットから出した。咲桜里は、動こうとしない。ジュースを、俺から受け取ると、隣に座れと、首をふった。
「まだ、時間かかるかな」
気づかないふりで、俺は、玄関先をみつめた。
「かんなさん。帰ってもらったら?」
小さな声で、咲桜里は言った。
「別に、ママに言えばいいんだし。」
「ここまで、呼んどいて、失礼だろ?」
かんなを侮辱されたような気になった。
「そんな。」
咲桜里は、俺を見上げた。
「何、怒ってるの?」
「怒ってない。」
「変なの。ムキになって。」
急に不機嫌になった。
「いいよ。一緒に帰りなよ。あたしは、大丈夫だし・・。やっぱ、ママに言わないとマズイから。」
立ち上がり、かんなの前にツカツカと行った。
「今日は、すみませんでした。後は、大丈夫です。親を呼びますので・・。」
頭を下げた。
「大翔?」
咲桜里は、かんなの前で、呼び捨てにした。
「帰っていいわ。後で、連絡する。今日はありがとう」
手で、電話するマネをしていた。
「私は、大丈夫だから?」
そう言われて、かんなは、立ち上がった。
「そうなの?」
俺を振り返る。
「そう言うなら・・・。」
咲桜里の顔は、言った事に反して、帰るなと、俺に言っていた。
「かんなさん・・・。先に帰っててください。」
そう言うしかなかった。
「大丈夫?」
かんなは、再度そう聞いた。
「大丈夫です。」
咲桜里は、急に機嫌がよくなった。
「ありがとうございました。」
俺の手をつかんで、頭を下げた。どう見ても、俺の彼女を気取っていた。
「そう・・。言うなら。」
かんなは、立ち上がり、バッグを手にした。
「じゃあ・・。またね。大翔君。」
笑顔を向け、玄関に向かった。
「あの・・。」
俺は言いかけた。すぐ、隣に行って、一緒に帰りたい。そう言いかけた。
「気をつけて」
そんな言葉しか出なかった。こんな事でも、かんなは、来てくれる。俺の中で、かんなは、少しずつ、形を変えていった。