似ている二人。
色とりどりの色彩が、目に焼き付く。ネオンの狭間に漆黒の闇が見える。昼とは、別の夜の顔。まるで、自分と同じだ。かんなは、鼻で、笑った。自分の心の奥の闇を見下ろす自分がいる。今までは、一緒に闇を見下ろしていた紫苑がいた。今は、一人。孤独に押しつぶされそうになる。闇の中に自分がいる。その中で、温もりを求め合うように、紫苑がいた。何も見えない闇の中で、確認できるのは、相手の温かさだけ。紫苑を失った今、自分は、胎盤から、引き離された赤子のように、頼りなく非力だった。もう、自分と一緒に、苦しみを分かつ人はいない。かんなは、そう感じていた。携帯が、着信を告げたのは、そんな時だった。
「はい?」
どうして、自分に?そんな思いで、かんなは出た。
「どうしたの?」
半分、疑っていた。自分に、まっすぐかかってくるとは、思っていなかった。大翔の声を聴きながら、頭の中は、疑問だらけだった。
「どこにいるの?」
質問だらけだった。
「わかったわ」
頼られている?いいや、大翔の家庭の事情からいって、自分しかいないんだろう。かんなへの電話は、不慮の事故を告げていた。そして、今、大人である自分の力が必要な事も。かんなは、とりあえず、大通りにでる事にした。タクシーをひろい、大翔の元へと向かうべく・・・。
どうして、かんなに携帯をかけたのか、大翔にはわからなかった。たぶん、親には、言いにくいというのはあるが、他の方法もあった。
「ここで待っているから。」
心もとない表情をする咲桜里に、大翔は言った。
「待っててくれる?」
いつもは、気の強い咲桜里も、今日は、静かだった。
「待ってるよ」
救急外来の受付は、病院の裏にある。人気もなく、なんとなく気味悪い。
「ありがとう」
初めて咲桜里がお礼を言ったような気がする。大翔は、振り返った。その時、彼女の姿は、診察室に消えていた。本当だったら、咲桜里の両親も、駆けつける事だろう。家庭環境の似ている彼女の家も、誰もくるはずもない。そんな似たような環境が、自分の義弟よりも、兄弟愛を感じていた。いつも、強気で、振る舞っているけど、本当は、孤独で一杯の彼女。自分の周りに、たくさんの壁をつくり、引きこもってしまった彼女。本当の彼女が、姿を現す事はあるのか?小さい時、一番、最初にあった時。泣き虫で、どうしようもなかった。あの日のまま、時間が止まっていてくれたら・・・。
「大翔君・・。」
かんなが現れた。急いできたのか、髪が少し乱れていた。
「場所が、最初わからなくて・・。」
救急外来は、看板がでているよ。大翔は、少しわらった。
「笑ってるの?」
かんなは、大翔が、笑ったのが、気になった。
「いや・・。」
せっかく、急いで来たのに。かんなは、少し怒った。
「事故って聞いたから。大丈夫なの?」
「ん・・。今、診察してもらっている所・・。すみません。お金。後で、返しますから。」
事故は、保険がきかない。いくら、裕福な家庭の大翔でも、そんなに、余分なお金は、急に、準備できなかった。
「足りるかな・・。」
かんなは、財布を出した。かんなだって、そんなに、余分にもっている訳はないだろうが。
「何事もないといいけど・・。」
かんなは、心配そうに、診察室を、覗き込んでいた。