表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/51

何があったの?雪月華。

静かに頭と垂れて、かんなは、二人の前に現われた。久しぶりの3人での、対面だった。

「こんにちは・・。」

秀香も静かに向かいいれた。

「こんな事になるなんて、思わなかったわね。」

秀香は、感情を押し殺して、語った。

「秀香・・。今日は、彼の個展の件で来たの・・。家もかなりの投資をしているわ。」

「どうかしら・・。」

入ってくるかんなを制するように、秀香は立ちはだかった。

「紫苑の絵画を一手に、引き受けたって聞いている。かなり、財を成すつもりよね。」

「そういえば・・。そうなるけど・・。あなた達には、損のない話よ。」

「あなた達?もう、遠慮はいらないって、事かしら?」

「秀香・・。」

かんなは、ため息ついた。

「もう、よしましょう・・。報告があるわ・・。」

秀香をおしのけ、かんなは、ガレージ奥に、座っている大翔の前に行った。黙って、二人のやりとりを聞いている大翔。

「秀香・。安心して。」

ゆっくりと、秀香を振り向いた。

「犀椰と入籍する。だから、秀香。安心して。もう二度と、邪魔はしないから。」

「紙切れ1枚なんか、信用できないわ。」

秀香は、叫んだ。

「どんなに、がんばっても、あなたは、紫苑と同じ世界にいた。私には、手の届かない。入り込む事なんで、出来なかった。」

「秀香。違う。」

「かんなには、敵わないと思っていた。同じ世界にいるあなたが、羨ましかった。」

「秀香・・。そんな。」

かんなも、秀香と同じ事を考えていたのだ。

「私だって・・。」

生命にあふれる秀香の絵に憧れた。色使いも、筆使いも、かんなには、到底マネの出来ない。紫苑も、秀香の絵の中の、無限の生命力に魅かれていた。残り少ない自分の命を、秀香の絵から、分け与えられると、信じていた。かんなにとって、秀香が、紫苑との間に立ち塞げる何者でもなかった。

「あなたが、羨ましかった。紫苑とこころから、結びついているって・・。」

かんなから、涙がこぼれていた。

「絵を描くのを辞めたのも・・。もう、才能がないと思った。大翔の絵を見た時、そう、思って・・。でも、彼が、紫苑と兄弟と知って。」

「紫苑と兄弟?」

秀香の顔色が変わった。

「かんな・・。どういう事?」

秀香は、紫苑と大翔が、異父兄弟とは、知らないでいた。

「大翔・・。」

二人のやり取りをきいていた大翔が、初めて声を発した。

「同じなんだ。」

大翔は言った。

「確かに・・。紫苑とは、兄弟。でも、今は、一つだ。前に描いた絵も、今、描いた絵も、世間がどう騒ごうが、同じ人間が描いた絵なんだよ。」

秀香は、ゆっくりと、唾を呑んだ。

「あなたは・・。誰なの?」

「最初から、誰でもない、僕一人なんだ・・。」

かんなは、悲しそうにうつむいた。

「大翔なんて、いないって・・事だと思っていた。」

「かんなは、知っていたの?」

「・・途中から・・。」

秀香の顔色が更に、変わっていった。唇をこわばらせ、踵を返すと、ガレージから、出て行った。カツカツと、ヒールの音が、響いて行った。

「そういう事に、考えたの。」

かんなは、言った。

「傍にいる秀香が、許せなくて。」

「あなたは、時々、ズルい時がある。」

大翔は言った。

「君は、本当の俺が誰かわかるの?」

かんなは、少し首をかしげた。

「誰かなんて、関係あるのかしら?そんな事より、個展を成功させるのが、先よ。年明け、一番に決まったの。それを伝えたくて・・。」

個展を成功させ、互いに離れる。犀椰と結婚し、日本を離れる。彼には、大きな画家としての名を残す。かんなは、そう決めていた。紫苑であろうと、大翔であろうと、自分が大切に思った人に代わりはないと・・。

「年明けか・・。」

大翔は笑った。

「雪月華の綺麗な時だな・・。最後に、描いてみようか?」

大翔の悲しい笑いに、かんなは、気づきもしなかった。

「一つ・・。聞きたい事があるの。」

かんなは、どうしても、紫苑・その人に聞きたい事があった。

「どうして・・。待っていたの?あんな所で・・。」

紫苑最後の事だ。

「あんな所で、一晩もいたら、死んでしまうの、当たり前でしょう?」

「そうだよ・・。」

大翔は笑った。

「その為だったんだ。もう、長くなかった。」

とめていた筆を勧めはじめた。

「長くないのは、わかっていた。でも、君との約束は守りたかった。」

「あたしは・・。」

かんなは、思い出していた。自分が、先に約束を破った日を。

「後悔していた・・・。苦しんで、苦しんで・・。だから・・。あなたの絵を何とか、仕上げ、世に出そうと・・。」

「それで・・。こいつを利用した。兄弟とも、知らずに?」

「そうよね・・。最初に気づくべきだったわ。面影も、画風も、似ているの当たり前だったわ・・」

大翔は、何ともいえない悲しい顔で、筆を走らせていた。

「なあ・・。かんな。」

「はい・・。」

大翔の隣の小さい椅子に、腰かけていた。

「昔に戻れるかな?」

「それは・・。」

かんなは、笑った。

「紫苑として?それとも、大翔として?」

「君は、どっちがいい?」

大翔の筆がとまった、大きな瞳がかんなの前にあった。二人の影がそっと、重なる瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ