君は何故、変わった?
紫苑とは、上手くいく事が出来なかった。かんなと紫苑には、目に見えない糸があり、自分は、近寄る事が出来なかった。人を大きく分けると幾つかに、分類する事が出来る。紫苑よかんなは、同じ世界の人間だった。だから、秀香は、それは、避けられないものと思っていた。相手を認める事で、自分の存在を確認していた。それが、今、長い遠回りの末、目の前に現われた。もう一人の紫苑の姿で。
「かなりのペースで、書き上げていると思うわ。」
秀香は、大翔の家のガレージにいた。まだ、脚が、不自由という事で、拓未か、秀香が付き添う事が多かった。母親は、あまり大翔と接触する事がなかった。というより大翔が避けていた。かいがしく秀香が、大翔の身の周りの世話をしていた。
「まさか・・。こうなるとはね。」
秀香は幸せだった。手の届かないと思っていた紫苑の傍に居られる。
「何か、言った?」
筆をとめる事なく、大翔は言った。
「何でもない。順調だなって。」
「そうだよ。もうすぐだから。」
大翔は笑った。笑った顔は、紫苑の面影はなく、あの大翔そのままの顔だ。
「初めての個展。」
「そうさ・・・。勝負の時さ。」
大翔は言った。
「勝負?」
秀香は、怪訝な顔をした。
「勝負だよ。俺にとって、復活して、最初の記念すべき展覧会だからね。」
「そうね・・。」
初めて、大翔とあった日の事が頭を過った。
「まさか・・。こんな日が来るなんてね。」
秀香は、まだ、大翔と紫苑の事は知らない。
「絵画の担当が替わった。」
大翔は、秀香に告げた。犀椰から、かんなになった事を告げた。
「そうなの?」
病院で、かんなと逢った日の事を思い出した。自分が、紫苑の影を持つ大翔の魅かれてしまったように、かんなが、魅かれていないとは、限らない。嫌な感情が沸き起こった。
「来るの?ここに?」
「個展のオーナーの、未来の奥様だ。来ない訳がない。大金が動くんだからね。」
大翔は、笑った。
「そういう女になったんだものな・・。」
少し、哀しげだった。
「絵だけ、描いてた頃が懐かしいよ。」
ふと、思い出したように、筆を置いた。
「そろそろ・・だ。」
「何が?」
秀香は、顔を上げた。
「画廊の方がお見えになる。」
静かにかんなを乗せた車が、とまる所だった。