表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/51

月と太陽。

病室から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。秀香だ。連絡したのだから、来るのは当たり前なのだが、嫌な胸騒ぎがした。紫苑と秀香は、魅かれあっていた。いつも、自分と秀香は、対極にあると言っていた。かんなが、一時、絵を描くのを辞めていたのも、秀香を意識してだった。秀香には、敵わないと思っていた。大翔も、知らず知らず、秀香に魅かれていた。似た魂を持つ人は、やはり同じような、人に魅かれるのだろうか。紫苑の意識を持ってしまった大翔が秀香に魅かれるのは、当たり前の事だ。秀香が、そこにいるのが嫌だった。

「あら・・。」

入室したかんなに気づいて、秀香の顔色が少し変わった。

「連絡ありがとう。遠慮なく押しかけたわ。」

そこは、大人だから、秀香は、冷静に久しぶりの友を迎える顔になっていた。

「随分、忙しそうね。」

「えぇ・・。お蔭様で。」

かんなは、答えた。この場で、自分の結婚の話になるのが、嫌だった。購入した画材道具を、大翔に突き出した。

「使わないのがあったから、どうぞ。」

「あら・・。」

秀香は、笑った。

「今、私も届けた所なの。ここにそんなに、あってもね?」

秀香は、押し返した。

「かんな。持ち帰って。彼は、使わないの?あぁ・・。画商だから、必要ないわね。結婚するんでしょう?今や、売れっ子になった画家と画商の結婚なんて、理想だわ。」

結婚の言葉に、大翔の瞳の奥が揺らいだ。

「理想だなんて・・。」

大翔の前で、結婚の話はしたくなかった。

「呼んでくれるんでしょう?新しいドレス買わなきゃね。」

秀香は、ノートを開いて、大翔に差し出した。

「どんなデザインがいいかしら?」

「君が着るの?それとも、彼女?」

大翔は聞いた。

「どちらだと思う?」

「君は、ドレスより、和服がいいよ。意外性がある。ドレスは、似合って当たり前だ。」

嬉しそうに秀香は、笑った。久しぶりにみる秀香の笑顔。メールでのやり取りはあったが、顔を合わせるのは、かんなの忙しさもあって、久しぶりだった。

「ごめん・・。あたしさ・・。」

この場に居ずらかった。二人の前から、逃げたかった。

「また、来るから。」

「そうね。同じ病院だし。」

秀香が、言った。

「そうでもないの。もう、退院するの。」

大翔と話したかった。でも、秀香がいたのでは、無理だ。

「ねぇ・・。」

大翔が、秀香に言った。

「喉が渇いたから、下にいって、コーヒー買ってきて。」

「今?」

秀香は、かんなと二人にしたくないようだ。

「今。待ってるから。」

秀香に言い聞かせるように、ゆっくり微笑んだ。あぁ・・。これも、紫苑と同じだよな。かんなは思った。秀香も、すっかり、大翔の言葉通りに、紫苑の姿をみつけ、時間だけが、遡り、秀香の心に火をつけていた。

「わかった。」

秀香は、ちらっと、かんなの顔をみやると、しぶしぶ病室から出て行った。

「かんな・・。」

秀香が、出て行ったから、大翔は、小さな声で言った。

「結婚するのか?」

紫苑の眼差しだった。

「本当に、そうなのか?」

かんなは、答えられなかった。

「行くなよ・・。」

「紫苑。」

今、目の前にいるのは、紫苑である。かんなは、そう思っていた。

「どうして、今頃。」

「ずーっと、待ってた。今、こうして、戻られるように。ごめんな。僕の力が足りないばかりに。」

「そんな・・。」

かんなの、目から涙がこぼれた。

「約束したから・・。紫苑の生き方を否定させてはいけないって・・。紫苑の生きた証を残すって。」

「一人で頑張ったんだろう・・。」

「大丈夫だから・・。」

誰にも、聞こえないように、かんなは、呟いた。

「いくなよ。かんな。」

「紫苑。あたしどうしたら?」

「傍にいて。」

「紫苑。」

かんなの手が、大翔に触れていた。

「力になって・・。誰にも、知られず。」

「力に?」

「絵を描くんだ。」

「いくらでも。」

かんなは、紫苑に触れたいと思っていた。昔、アトリエで、こっそり、触れ合ったように。紫苑に触れたいと。でも、いつ、秀香が、戻るかもしれないので、じっと我慢した。

「力になる。まかせて・・。」

「戻ってきたから。紫苑の絵を描くよ。」

犀椰と考えていた事を紫苑が知っているかのように、答えたのを聞いて、かんなは、少しドキっとしたが、すぐその思いは、かき消えていた。大翔の唇がそっと触れてきたのだ。何年も、かんなが、望んだ瞬間だった。

「紫苑・・。」

かんなは、満ち溢れた思いだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ