漂う、紫苑の影。
いつまでも、引きずっていてはいけないんだ。かんなは、そう思っていた。紫苑への思いが今も、胸の奥に、陰となって染みついていた。紫苑との、思い出は、全て忘れてしまったはずだった。だが、時として、紫苑の影が、日常の合間に見える時がある。
「これも・・。そうだ。」
紫苑の色使いをまねたイラスト。何を作っても、今の自分は、紫苑と同じ作品しか作れない。全て、模造でしかない。忘れたはずなのに、心の何処かで、紫苑を求めていた。
「どうして?」
答えはない。
「紫苑・・。」
紫苑は、自分が嫌いだった。
「いつか、存在を消すんだ。」
冗談かと思った。
「ごめんな・・。」
突然、紫苑は去った。かんなの前から。地上の全ての物の前から、姿を消した。
「かんな、一人で生きて行けるよ。かんななら。」
携帯は、そう告げて切れていた。かんなには、何も言わせないまま・・。
「どうして・・。」
疑問だけが、残る。どんなに、問いかけても、答えを聞かせてもらう事はない。
「ごめんな。」
声が、現実へと、引き戻した。大翔だった。
「紫苑?」
一瞬、紫苑の顔と重なった。
「誰?」
大翔は、かんなの、表情にはっとした。
「誰の事?」
「あっ・・。」
かんなは、現実に戻った。
「いえ・・。」
大翔が、怖い。彼の中に、紫苑が、眠っているかのようだ。
「先に、進めましょうね。」
かんなは、あわてて、大翔の前から、立ち上がった。
・・きっと・・。
気づいていた。
大翔に、魅かれては、いけないという事に。そして・・。大翔の魂の色と、紫苑の魂の色が、あまりにも、似ているという事に・・。
「始めましょうね・・。」
大翔からの、視線を無視するように、背にしていた。