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暗い炎の中にいる人。

病室に戻ったかんなは、震えてた。あれは、間違いなく紫苑だった。顔もその瞳も紫苑と違うのに、話し方も、目線の合わせ方雰囲気も紫苑だった。大翔は、一度も、紫苑にあった事がない。紫苑を知ったのは、絵を通してのみになる。紫苑の絵から、スキャナーのように、全て、読み取ったのだろうか?どちらにしろ、紫苑が還ってきた。複雑な思いにかんなは、震えた。

「震えてるの?」

犀椰は、かんなの細い肩に手を回した。

「紫苑って、言ったねあの紫苑だろう?君が最初にこの世界に入る事になった。」

かんなは、頷いた。

「本当の事を言っていいんだよ。」

かんなは、犀椰の顔を見た。

「あの絵は、紫苑が生前に残したものじゃない。そうだね?」

犀椰は、かんなをベッドにかけさせた。

「不思議だったんだ。火事で、残った絵と聞いた。何枚か彼の作品を見た事があるが、画風が少し、違っていた。君が、少し手伝ったと聞いたけど、それとは違う。」

幾つもの画廊を経営する犀椰の目は正しい。

「彼を見て、直観した。彼も絵をかくんだろう?」

かんなは、どう答えていいのかわからなかった。

「僕は、君以上に、君の事がわかるよ。」

犀椰は、全て、気づいていた。黙って、静観していたのだ。

「彼が、紫苑だよ。君の中で・・。」

声にならない悲鳴をあげて、かんなは、口をおおった。確かにそうだ。紫苑は、とうに、亡くなっていた。・・・が、彼女の前に現われた大翔は、かんなの理想をすべて叶えた紫苑そのものだった。

「最初は・・。」

かんなは、犀椰にだけは、本当の事を伝えるべきだと思った。

「彼を見たとき、少しだけ、紫苑の絵を手伝ってもらうつもりだったの・・。どうしても、彼が絵に賭けた生き方を彼の両親に認めさせたくて・・。でも。」

「彼の絵の腕が欲しくなった。」

かんなの両目から、涙がこぼれた。

「大翔は、何も、欲がなかった。あたしの絵はもう、才能がない。そう感じていた時だった・・。力が欲しい。この暗いトンネルから抜け出る力が、その時は、必要だった。」

「まさか・・。かんな。あの火事は?」

かんなは、否定しなかった。

「エピソードが必要だった。」

「そんな・・。絵の事は、何よりも大切にしていたろう?」

「何も、消失していない・・・。贋作だけ、失っただけ。」

瞬間、犀椰は、かんなの頬を叩いていた。

「・・ください。」

消え入りそうな声で、かんなは、言った。

「何?」

「もう・・。別れてください。」

「火事の事は、忘れたほうがいい。僕も忘れる。」

犀椰の拳が白くなっていた。

「かんな・・。君の気持ちはわかるよ。」

再度、言った。

「僕も、絵を志した事がある。才能がなくて、諦めたから・・。」

黙って、無くかんなの頬に触れた。

「ごめん・・。行き過ぎた。」

「いいえ・・。」

「絵を焼く何てこと、して欲しくなかったから。でも、別れるなんて、事、考えないでほしい。」

「こうなった以上・・。」

かんなは、じっと、自分の胸を抑えた。やっと、傷が治りかけたばかりである。全て、自分が悪い。大翔の刃で、命を絶たれても惜しくなかった。それなのに、自分は生き、大翔は事故に逢い、記憶を失った。

「かんな・・。こうなったのも、紫苑の遺志かもな・・。」

ブラインドからの夕日がまぶしい。

「自分は紫苑だと言うんんだろう。」

犀椰は、寂しい笑いをした。

「彼がそう言うなら、そうなのだろう。」

「何を・・?」

犀椰が、何を言おうとしてるのか、理解出来なかった。

「結局、僕らは、似てるのかもな。」

「止めて!犀椰。」

「紫苑でいてもらおう・・。彼の名が、必要なんだろう?君も、僕も・・。」

「ダメよ。」

「君が始めた事だろう?彼も喜ぶよ。」

「犀椰・・。」

・・・かんな・・・・

遠い陽の紫苑がそこに居た。親に勘当されてまで、絵を志した紫苑の姿が。無念にも、かんなとのスレ違いの中、命を終えたその人の姿・・・。

「紫苑にまた、逢えるんだ。よかったな・・。」

犀椰の瞳の奥に暗い炎を見た気がした。


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