もう一つの朝。
「かんな・・。」
何度も頭の中かた、響く声。それが、婚約者の声であった事を知るのに、そんなに、時間はかからなかった。
「犀椰・・。」
起きようとしたが、腹部が痛んだ。呼吸も煩わしい器具がついていた。
「しばらくは、無理だよ。何があったかは、後から聞くけど・・。もう、1週間も、寝ていたんだよ。」
どうやら、ICUに、いるらしい。犀椰の姿が、それを物語っていた。
「ひどい怪我だった・・。手術は、成功したから、いいものの・・・。刺された?」
かんなは、慌てて、首を振った。
「変だな。かんなの部屋の前で、若い男にあったって、配送の子が言ってたてけど。」
大翔だ。そうだ。あの時、自分は、大翔を庇い、刺されたまま、倒れてしまった。大翔は、無事なんだろうか・・。
「救急車が、2台も、大変だったよ。君を刺した男が、車にはねられたんだ。あいにく、側溝に落ちたらしく、怪我も相当酷い。」
「生きてるの?」
そう聞きたかった。
「君を刺した犯人なら、そのまま、しんでもらって当然だけど。」
かんなは、呼吸器を、はがし取った。
「違う・・。」
気道が荒れて、声にならない。
「あたしの、事故なの。彼じゃない。」
「知ってるのか?」
犀椰は、驚いた顔をした。
「誰なのか、知ってるのか?」
「彼は・・。昔の・・。」
何というか迷った。
「生徒だった。家庭教師で行ってた。」
痰が、気道に詰まっていた。せき込む。
「誰なのか、名前がわかるのか?」
犀椰は、傍にあったペンを手にとった。
「教えてあげたほうがいい・・。」
かんなは、驚いた顔をして、見上げた。
「わからないんだ。誰も。彼も周りも、わからない。彼は誰なんだ?」
大翔は、記憶をなくしていた。