魂の絵。
どうして、あんな悲劇が起きたのか、誰の胸にも、疑問だった。何故、人気の去ったアトリエから、火の手があがったのか、誰も考えられなかった。というか、考えたくなかった。そこに、居た人達・・。つまり、疑われる人は、俺だったりした。
「まさか・・。」
俺が?どうして。絵が残ったから?俺は、簡単な事情徴収とやらを受け、つまらない自宅に帰っていた。
「良かった・・。」
俺の絵を確認して、涙したかんなの顔が、忘れられなかった。
「そうだよ・・。」
絵がどうの、こうのじゃない。
「わかった。」
鈍すぎる。
俺は。
魅かれてる。
認めたくない感情があった。だけど、絵がどうの、魅かれるのはどうのと言いながら、本質な部分で、俺は、かんなに魅かれていた。絵が、かんなの魂を込めた作品だとしたなら、絵が全てを物語っていた。
かんなの絵に魅かれているのではなく、俺の魂が、かんなの魂に共鳴しているそう感じていた。
「全て、受け入れるだけ。運命とは、そんなもの。」
秀香が言っていた。悲しいい横顔だった。偶然ではなく、これは、必然。かんなに、魅かれるべき、俺の絵。作品。きっかけ。だった。
「かんな。」
電話する時間は、必要なかった。玄関にかんなが、姿を現した。
「変だ・・。」
俺は、笑った。
「どうして?」
母親に言われてから、もう、かんなが、この家に来るとは思わなかった。
「私は、もう来ないと思ったの?」
「そう・・。」
声が乾いていた。かんなを意識して、声が出ない。
「来なきゃと思ったの。」
かんなは、今までもがそうだったように、靴をそろえて、あがっていた。
「知ってる?」
俺は、笑った。
「誰も、いない時間の年頃の男の家に来るなんて。」
「知ってるよ。だから・・。来たの。」
かんなは、俺を押した。
「私に、欲しいの。」
そう言われてどきっとした。
「何を?」
変な気分だ。
「大翔の時間を。」
「俺の?」
「絵が欲しい。大翔の書いた絵・・。」
「どうして?」
かんなの方が、始めたばかりの俺より、各段に上だ。そのかんなが、欲しがる理由が、秀香に言っていた事だろう。その理由に胸が痛んだ。
「言って。」
俺の前で、あの人の名が言えるなら。
「それは・・。」
かんなの目が泳いでいた。別な言い訳を探すように。
「わかっているよ。」
紫苑に似てるから。紫苑の仮名で、出展したいから・・。秀香の言葉が耳に突き刺さる。
「紫苑さんの代わりだから?」
「違うよ。」
「似てるから?俺が、あの人に?」
「違う!」
それ以上、言わせたくなかったのだろう。かんなは、俺の口を自分の口で、ふさいでいた。
「バカだよね・・。」
しばらくして、かんなは、言い放った。
「でも・・。抜け出る事が出来ないの。」
「あんたは・・。」
俺は、冷たく言った。
「あの人の亡霊に縛られている。」
「ごめんなさい。でも・・。」
「やるよ。絵がほしいんだろ。」
何も言われなくても、その絵は、かんなに、渡すつもりだった。ススで、汚れたあの絵。
「もっていけよ。」
欲しいのは、絵だけなのか。目の前のかんなから、光は消えていた。雨上がりの日差しの中の若葉のように、輝くかんな。きびすをかえし、玄関から消えていた。