あなたの見てる人。
ぼんやりと、映るのは、白い天井。なんとなく、生きてきた。そんな気がする。自分から、絵や紫苑をとってしまったら、抜け殻になる。もっとも、自分の存在って何なのだろう・・。紫苑が教えてくれると思っていた。紫苑に必要とされ、必要としていた。二人の通う言語は、絵。一枚の。全て、分かり合い、写し鏡でいたのに。
「だめだ・・。」
顔を流れていく後悔の涙。
「もう・・。とりかえしつかない・・。」
求めていたのは、紫苑だけなのに。つまらないすれ違い。似たもの同士だから、今一つ、互いに踏み込めなかった。
「ごめんね・・。」
紫苑とどうしても、分かり合えなかったその奥には、彼の寿命があった。消えかけた自分の人生にかんなを、寄り添うべきではないと、ぎりぎりで、考えた紫苑。全て、はなしてくれれば、縛られる事もなかったのに。
「今更・・。」
時間は、戻らない。かんなは、秀香と別れた後、どうやって、自分の部屋に戻ってきたのか、覚えてない。携帯がなった。
「はい。」
田舎の親からだった。連絡のない娘を気遣う親心である。かんなは、適当に返事をすると、電話を切った。また、携帯がなった。
「はい。また・・。どうしたの?」
親だと思った。大翔からだった。
「あの・・。」
勇気を出して、話しかける様子だった。大翔とわかれば、電話に出なかったのに。今、彼と話す心境じゃなかった。
「どうしたの・・。」
かんなの涙で曇った声だ。
「今日・・。ここに、居るって聞いたから・・。」
アトリエにいた。
「用があったから・・。その・・。仕事もあるし。」
「そう・・。」
大翔は、かんなの感想が聞きたかった。
「どう・・。思う?」
「絵の事?」
本当の事をいうか、迷った。
「いいと・・。思う。」
かんなの声は小さかった。
「好き。その絵は、私の好きな線だと思う。けど・・・。」
言わないほうがいい。自分で思った。
「けど?」
その先が聞きたい。かんなに、好きと言われて大翔は、嬉しかった。
「でもね・・。」
溢れだす紫苑の影。
「その絵は。」
言っちゃいけない。大翔が、傷つく。
「悲しい・・。事を思い出させるの・・。」
涙が溢れる。
「悲しくて・・。」
涙で、声にならない。
「かんなさん。・・。」
直観だった。かんなが、誰かを見ている。大翔は、自分を通して、かんなが、誰かを見ているのを感じていた。
「かんなさん・・。今・・。何処?」
嗚咽が電話から、聞こえて、大翔を不安にかきたてた。