ただれる心の奥。
何ともいえない達成感があった。今までにない感覚。絵を描くのが好きだった訳ではない。ただ、何かを表現したかった。自分の気持ちの奥底に眠る言葉では、言い表せない。怒り。思い。ただ・・。キャンバスにぶつけていたら、意外な気持ちが生まれてきた。何だろう・・。この気持ち。孤独の中に、人恋しさがあった。人恋しさのなかに・・。ずーっと、今まで、見てこなかった気持ちがあった。
「誰かを大切に思いたい・・。」
今までは、愛されたい気持ちが強かった。愛されたい故に、孤独になっていた。キャンバスと対話しているうちに、自分が見えてきた。
「無心なのね・・。」
一緒に隣で、描いていた秀香が言った。
「口・・。開いているわよ」
「あぁ・・。」
あやうく、ヨダレまで、出ていそうになっていた。
「前にも、描いたことあるの?」
「全然・・。」
大翔は、答えた。自分では、何を描いたかは、意識していない。ただ・・。誰かを思いたい一心だった。
「ふぅん」
秀香は、何か言いたげだったのを覚えてる。
「最近、調子いいみたいね。」
咲桜里だった。
「うん。」
素直に返事出来た。
「今日は、バイトなしだから、帰るわ。」
咲桜里の誘いで始めたコンビニのバイトも、アトリエに行くようになってから、負担になっていた。
「また・・。絵描いてるの?」
「もう少しで、終わり。」
面白くないのは、咲桜里。大翔は、手が届きそうで、届かない。もう少しで、学園祭がある、その時、一緒にみんなの前で、祝福されたい。
「大翔。話があるんだ。」
言ってみた。いい加減、自分の気持ちに気づいてほしい。
「ごめん。急いでるんだ。」
早くしないと、あの人の所に行ってしまう。
「待って。あの人のところに行くんでしょう?」
「あの人。」
「おばさんじゃない。」
聞こえないように、ポツリと言ったつもりだった。
「おばさん?」
大翔の顔色が変わった。
「誰の事?」
声が震えていた。
「あの・・。」
それ以上、言えなかった。
「行くから。」
怒ったような顔になり、大翔は、昇降口から駆け出して行ってしまった。
「どうしてなの?」
咲桜里には、わからなかった。はるか上の女性に魅かれ始めている大翔の事が。誰だって、同じくらいの子の方がいいに決まっている。そう、言う友の声が、胸に突き刺さっている。
「かんななんか・・。」
醜く心がただれ始めていた。