迫る時間・・・。
大翔の様子が、少しずつ変わっていくのを、咲桜里も、敏感に感じとっていた。それが、かんなのせいである事は分かっていた。
「最近、真面目の、授業うけるのね・・。」
サボる事もなく、授業に出る大翔の背に話しかけた。
「どおいう心境の変化なの?」
「心境?」
大翔は、教科書片手に、振り返った。
「瞑想だよ。」
「瞑想?」
「考え事するのに、いいんだ。イメージを考えるのに、邪魔が入らない。」
「なんの?」
再度、聞き返したが、もう、大翔は、教室に戻って行っていた。
「絵だよ。」
変わりに、答えたのは、大翔のクラスの歳賀だった。
「あいつが、絵にはまるなんて、思わなかったな。」
大翔とは、気があわない。
「いつまで、続くかって思ってみてますよ。って、言っても、僕には、興味がないですけどね・・。」
「とか、何とか、言って、張り合うくせに!」
「僕が絵を?まさか・・。止めてください。絵では、食べれませんから。」
面倒臭そうに、メガネをかけ直すと、咲桜里の肩を叩いた。
「いつまでも、関わっているとロクな事ないですよ・・。」
「ふん。」
咲桜里は、鼻で笑った。
「あなたといるより、マシだけど。」
「僕もあなたは、ごめんですよ。」
大翔の背を目線の先に追いながら、咲桜里は、背伸びした。大翔は、自分から、どんどん遠くになっていくのを感じた。自分と、似た環境で、育ち、一番分判り合えると思っていた。それが、最近、そう感じていたのは、自分だけであった事に気づいてきた。
「大翔・・。」
大好き。そう思いながら、少しずつ離れていくのを寂しく感じるのだった。きっと、あの人が、現われてから・・。年も上のかんなへの焼きもちを感じ始めていた。
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かんなは、あれから、アトリエに行かないでいた。秀香に、絵を描かせたい為に、大翔を行かせたものの、自分自身は、描けないでいた。代わりに、秀香が、描くことが出来れば・・。足は、すっかり、アトリエにも、向かず、ずっと、図書室にこもったままだった。
「ずっと・・。顔出していないんじゃない?」
耳元で、ささやく声が聞こえた。
「えぇ!」
声をあげたので、一瞬周りの生徒が、かんなの顔を振り返った。
「すみません・・。」
周りに軽く誤った。
「あの・・。」
かんなは、図書室から、出るようサインを送った。
「先輩・・。」
どうして、ここへ?そう言いたかった。
「久しぶり。」
笑った青年は、かんなより、ずっと、背が高かった。紫苑よりも、一回り大きいのに、凄く、細く見える。
「光樹先輩・・。」
目が合わせられなかった。
「もう、描かないなんて、言わないよね。」
紫苑の友達。何もかも、知っているはずの人。
「描かないんじゃなくて、・・」
言おうとして、止めた。言ってしまう事で、秀香を裏切るような気がしたからだ。
「描いてよ・・。もう、いいんだから。」
「わかってます。」
まだ、紫苑の幻影から、抜け出ていない。
「じゃ・・。」
気まずい。
「用事があるので・・。」
かんなは、その場から、立ち去った。彼の前にいるのが、嫌だった。現実を突きつけられるような気がしたのだ。
「紫苑は・・。」
かんなは、腕を抱きしめた。
「自殺したのに・・。」
まだ・・。
「抜けれない。」
秀香がそうなの?
「違う。」
自分。