Rye
掲載日:2026/11/07
Catcher in the Lie
「ライ麦は雑草だったって、知ってる?」
トーストを食べかけた夫は、口をあんぐり開いたまま振り向いた。
「ライ麦って、毎朝食べてるこれ?」
「そう」「雑草なの?」「過去形ね」
目玉焼きをつつきながら、続ける。
「ライ麦はもともと小麦畑の雑草だったの。
だけど、だんだん小麦に似ていった。
小麦そっくりなら除草されにくいから」
「ゆっくりと長い時間をかけて、進化して。
穂をつけて、実をならすようになって。
雑草だったライ麦は、ついに穀物になったのよ」
「へええー!」
「小麦の方が美味しいけど、栄養価はライ麦が上。
だから最近は見直されてるんだって」
「そうなんだ。偽物が本物に並んだわけか」
夫は素直に感心している。
「──どう思う?」
「うーん、そうだな。たくましいって感じたかな」
「ふふっ、そっか」
満面の笑みを向け、私は夫を送り出した。
あの人が元カノと会ってることは、知っている。
それでも構わない。
私は明日も、ライ麦のパンを焼く。




