プロローグ
放課後の教室、窓から差し込む夕日は前と変わらないオレンジ色だ。だけれども、いつもの教室のフロアは変わり、私たちは高校3年生になった。
「ねえ、紬。みてこれ!新作スイーツの限定クーポン!怪しくない?」
私の目の前にスマホを突き出してきたのは、お浅馴染みであり親友の七香、茶髪のボブにクルクル変わる表情は、ディズニーのリスを思わせる。学校で彼女の知らないことはないと言われるほどの情報通で、そして私の元へあらゆる事件を運んでくる天才だ。
「…七香、それURLが微妙におかしいよ。公式アドレスじゃない。クリックしたらダメなやつ」
私はスマホの画面を一瞥して、ため息混じりに答える。私の名前は紬。読書が好きで、目立つことは苦手な、国風の女子高生。ただ一つ、他の子と違うところがあるとしたら、私のパパが、ちょっと変わった「セキュリティの専門家」ということだ。
「セキュリティは、鍵や盾じゃない。人と人を繋ぐ絆だ」
それがパパの口癖。難しそうなパスワードの話も、怖いウイルスの話も、パパにかかれば「人の心」の話になる。そんなパパの影響で、私はいつの間にか、学校内で起こるネットのトラブルやデジタルの謎を解決する「セキュリティ探偵」なんて呼ばれるようになってしまった。もちろん七香のせいで。
去年、私たちは事件に巻き込まれた。パスワードを友達に教えてしまったことによるトラブル、フリーWiーFiに仕掛けられた罠、「コックリさん」の正体や、SNSを使った国際ロマンス詐欺…
それらの事件を通して、私たちが学んだこと。それは便利なスマホやネットの裏には、常に「悪意」や「事故」が潜んでいること。けれど、それらから身を守る最強のセキュリティは、高価なセキュリティソフトではなく「信頼と相談ができる人との関係」だということ。
「えーっ!これって偽物!?あぶなっ!さすが紬!頼りになるー」
七香が安堵したように笑う。3年生になっても私たちの日常は変わらない。ネットの世界は秒単位で進化している。新しいアプリや流行りが生まれ、それと同時に新しい手口の「罠」も生まれてくる。
「紬、今年もよろしくね!私の専属セキュリティ探偵さん!」
「…その呼び方、やめてってば!」
苦笑しながら、私はカバンを持ち直した。
私たちの新しい1年、高校最後の1年、そして新しい事件の幕開けだ。
ここから始まるのは、大人の階段を登り始めた私たちの、少しビターで、でも温かい「心とセキュリティ」の物語。




