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第13話 共犯者たちの夜

ミナコは、ノアから届いたメッセージを見て、思わず息を止めた。

『シンとユキさん、くっつけたいんだ。

 助けてくれない?』

――え。

『お返事、少し後でもいいですか?』

『うん!いい時に話したい』

推しから、こんな相談をされて

平静でいられる人間がいるだろうか。

頭のてっぺんまで、一気に血が駆け上がる。

(ディズニープリンスみたいなノア君と……

 まさか、ラインできる日が来るなんて)

MUSEは七人組のアイドルグループだ。

ミナコはMUSEのデビュー当初から追いかけてきた。

振付師でリーダーのマサト。

天才作曲家のシン。

俳優としても活躍する圧倒的ビジュアルの

ケンとリンタロウとリック。

MC担当で場を和ませるユウマ。

そして――愛嬌と華で空気を変えるノア。


華やかな事務所所属にもかかわらず、

デビュー当初のMUSEは、

とても「売れている」とは言えなかった。

それでも、なぜか――

彼らのYouTube動画が、

偶然ミナコの目に留まった。


ノアが、メンバーと並んでインタビューに答えていた。

『僕が、この七人と、関わる皆さんと、

 ファンの皆さん、そしてそのご家族の人生を背負っています』

『絶対、誰にも迷惑をかけられません。

 歌で、みんなをもっといい場所に連れていくのが、

 僕の使命です』

――十六歳の子の発言とは、思えなかった。

(私、こんなふうに誰かの人生を考えたこと、あったかな)

衝撃だった。

アイドルは、軽くて、派手で

見た目だけの存在だと思っていた。

でも違った。


それからミナコは、彼らの歌と踊りを観るたび、

自分もちゃんと生きようと思うようになった。


バイトを頑張ろう。

就職をきちんと考えよう。

掃除や運動もちゃんとしよう。

一瞬一瞬を、雑に扱わないで生きよう。

その気持ちを、同じように共有してくれたのが、ユキとサキだった。

こんな話を、真正面からできる友情は、他に知らない。

サキとユキが打ち明けてくれた、

貧しい生活や、先の見えない不安の話も、

ミナコの価値観を大きく変えた。


誰かの役に立つ仕事がしたい。

そう思って、薬学部へ進み、

資格を取り、働き始めた。

薬剤師の仕事は、

薬を出すだけではなかった。


不安を抱えた高齢者の話を聞き、

病と向き合う家族の背中を支え、

ほんの一言で、誰かの一日を軽くする。

――この仕事は、自分の生き方に合っている。

心から、そう思えた。


ミナコだけは、二人よりもずっと長く、MUSEを追いかけていた。

小さなライブハウスの頃から、ファンミもすべて参加していた。

やっとユキとサキのお金の余裕ができて、

三人でライブに行けた日。

心から嬉しかった。


そんな“ガチ中のガチ”ファンである自分のもとに、

ノア本人から、メッセージが届く。

(……こんな奇跡があるなんて)

ミナコはスマホを握りしめ、

深く、息を吸った。


-------

最上階のお茶会を出た夜。

サキの家で夕飯を食べた時。

ミナコは隣に座るユキを、そっと見つめた。

「ユキ、今日はありがとう。シンくん、本当に素敵な人だね」

「本当に素敵でかっこよかったね!

 優しいし、最高に綺麗でかっこよくて……神だった!」

――二回言った。

“かっこいい”を、二回。

(私は言ってないけど)


ミナコの冷静な気持ちとは裏腹に、

ユキの目はとろんとしていて、

その視線の先には、はっきりと“推し”以上の感情があった。

(もう、ファンを超えて恋だ--)

「やっぱりさ、直接会ってて、惚れ直したんでしょ?」

サキの一言に、ユキは体をくねらせて黄色い声を上げる。

「やーん、やめてよぉ!」

「でも、すっごくいい感じだったよ?」

「きゃー!ほんと?

 シンくんいつもカッコ良すぎて、

 死にそうだったことしか覚えてないけど……」

ミナコは確信する。

(メロメロ、どころか……完全に骨抜きにされてる)

でも同時に、胸の奥がひやりと冷えた。

(……私が、ここに踏み込んでいいの?)


ユキの気持ちは、絶対に外に漏らせない。

それに相手はアイドルだ。

すごくモテるだろうし、

遊びじゃないのか。

本気だとしても、守れるのか。

最悪の場合、傷つくのはユキだ。

最近のニュースが、嫌でも頭をよぎる。

(感情だけで動くわけにはいかない)


ミナコは、家に帰って、

深呼吸してから打ち込んだ。

『とりあえず、一度お話を聞かせてください』

すぐに、返事が来た。

『ありがとう。

 いつなら話せる?ちゃんと説明したい』

『夜なら、いつでも』

そうして、平日の夜に、電話で話す約束をした。


-------


約束の火曜日。

夜になって、ノアくんから一通。

『できたら、顔見ながらビデオ通話でもいい?』

軽く写りを確認してから、OKを押した。


画面に映った彼は、

すっぴんでも、大きな目がキラキラしていた。

(よくSNS配信で見慣れた顔。そのまんま……)

意外と、ミナコの方は全く緊張しなかった。

「わあ!俺んちと同じ色のソファだね。

 思ってたよりかっこいい大人な部屋で、びっくり」

「……はあ」

(そりゃ、あなたに合わせてるからです)

心の中で突っ込みつつ、ミナコは画面の向こうのノアと向き合った。

「いきなり本題に入っても、いい?」

「はい」



ノアは一度、大きく息を吸った。

「まず……今の芸能界って、昔と全然違うでしょ。

 特に今のアイドルは、真面目さがないと、生き残れない」

「……そうですね」

「俺たちMUSEは、過密スケジュールで。

 働く以外は、寝るか美容クリニックとジムの往復で。

 華やかなイメージとは真逆なんだ」

「……はい」

「友達とは飲むけど、

 クラブとか行ったことないし。

 先輩達のスキャンダルもすごかったせいで、

 “大人になったら遊ぶ”みたいなことは、完全に禁止だし」


笑いながらも、ノアの目はすぐに真剣に戻った。

「何度もメンバーに彼女ができたりしたけどね。

 でも、そのたびに本当に”大ゴト”になった。

 管理体制厳しかったし、活動休止もあったし」

それは、ミナコも何度も見てきた光景だった。

「だから、シンも、俺も……

 歌手として成功することが、何より優先だった。

 正直、恋愛とか怖くて、ずっと遠ざけてきた」

ミナコは、少し首を傾げる。

(……とはいえ、本当のところはわからないけど)

けれど、話を続けるノアの声は、どこか疲れていた。

「そうやって外からの楽しそうなことは遮断して

 引きこもってるけど。

 逆にアンチや、アイドル批判とかの酷い攻撃はされてて。

 もうきつくて、精神的にはかなりギリギリで……」

「……それ、私が聞いていい話ですか?」

思わず、途中で遮って、聞いてしまった。


ノアは少し迷ってから、まっすぐ画面を見た。

「うん。ミナコちゃんなら。

 秘密を守ってくれるって、信じてるから」

その一言に、胸の奥が、静かに揺れた。

「どうして……そんなふうに思ってくれたんですか?」

「友達のことで協力してほしいって言ったとき、

 すぐにOKしなかったでしょ。

 ああ、この人、ちゃんとしてる人だなってわかった」

——そんなに、簡単に人を信用して大丈夫なんだろうか?

彼が心配になったが、何も言えず、ミナコは黙ってしまった。

「特にシンは発散する場所ないし。

 友達も殆どいないし。

 ……音楽にのめり込みすぎて、よく倒れたり、体調崩してて」

「そこまで……だったんですね……」

声のトーン。

表情。

そのどちらもが、冗談じゃないと告げていた。

「……シンはもう本当に限界なんだ。

 精神的につながれるような人が必要だと思う。

 ……それが、ユキさんだなって」


その言葉を聞いて、

(私も外から見ていた人間として、ひとつ、言えることがある)

そう思った。

「……うん。なんとなく……分かる。

 ユキとシン君、見て一瞬で、

 ……二人は心が通じ合ってるって感じた」

正直な気持ちを、そのまま言葉にした。

「でしょ?

 二人って、本当に楽しそうで。

 ……シンのあんな顔、見たことないし」

どこから見ても、特別な二人。

——一緒にいることが、幸せそうで、お似合いの二人だった。

「俺、無理やりくっつけたいとか、

 そこまで考えてるわけじゃないんだ」

「……というと?」

「シンが、ユキさんと一緒にいるだけで元気になるなら、

 ……その時間を、できるだけ多く作ってあげたくて」

「……」

「でも、本当に仕事以外は外部と遮断されてるから

 難しいんだけどね」

——やっぱり、アイドルだから、なのかな。

ちゃんと付き合う、とは言えない立場。

それは、分かる。


でも。


(女としては……ちゃんと向き合って、

 お互いの幸せを考えられる関係の方が、誠実なんじゃないの?)

大好きなユキのことだから、なおさら。

ミナコは、ゆっくり深呼吸をした。

「……一緒にいさせてあげたいのは、分かります。

 でも。ユキは……一番大事な友達なので」

少しだけ、声に力を込める。

「中途半端な気持ちで近づかれるのは、正直、困ります。

 本当にユキを幸せにしたいっていう、強い覚悟がないと……」

言い切ったあと、少しだけ怖くなった。

——嫌な思い、させたかな。

でも、ユキのことを思ったら、

ここだけは、譲れなかった。

「……確かに。ごもっともだ」

ノア君は、驚いたように目を見開く。

それから、真剣に考え込んだ。

「……将来の話になるけどさ。

 もしユキさんが、別の人と付き合って結婚したとしても、

 一生、友達として支え続ける。……それじゃ、ダメかな」

「……でもその前に。

 もし二人が付き合っても

 アイドルだからって理由で別れることになったら……

 ……傷つくの、ユキですよね」

「……う、うん……確かに……」

画面の向こうで、本気で悩んでいる顔。


——ビデオ通話で、よかった。

ちゃんと、真剣に考えてくれてるのが、分かる。

「……ちょっと、俺。

 もっと本気で、ミナコちゃんを説得する方法、考える」

「え?」

「2、3日後、また連絡していい?」

「え……は、はい」

(むしろ……いいんですか? ノア様……)


「絶対、一緒に二人のこと、守りたいから。

 また連絡するね」

二人で挨拶をして、すぐ通話が切れた。


静かになった部屋の中で、

胸の奥だけが、まだ騒がしい。

ノア君の顔を見てたからというのもあるけれど。

シン君とユキ。

あの二人の関係を、

どう受け止めればいいのか、

ミナコには答えは出せなかった。


-------

 水曜日。

薬局でユキのことを考えていた。


午前中、素敵な老夫婦の姿がみられた。

「仲良くされて羨ましいです!」

と告げると

「人生あっという間だからね。

 お姉さんは本当に、本当に好きなことをするのよ」

「後で後悔しないように。自分の気持ちを一番大事にしなさい」

そんな言葉をかけられた。


好きなまま、一瞬でも一緒にいる時間を選ぶのか。

傷つく未来を見越して、付き合わないようにすべきなのか。

困難は、きっとある。

うまくいかないことも、きっとある。

それでも。

……ユキの気持ちを、優先していいのかもしれない。

ユキ自身が、どう考えているのか。

ノア君に会う前に、聞いておきたい。


——ミナコがそう思った、その時。

スマホが震えた。

『近くで撮影だったんだけど、

 ミナコ、夜一緒にご飯食べない?』

迷わず、OKを送った。


ユキは、外食ができない。

だから、いつもうちに来る。

その晩は温野菜と、発芽玄米のお粥を作ってくれた。

「今日、サキはデートだったんだー」

「そっか」

二人で白菜と海老の、優しい味のお粥を口に運ぶ。

「ユキーー!!本っ当に……いいお嫁さんになるよ!!」

「ふふ。ありがと」


ミナコは、意を決してスプーンを置いた。

——今、聞こう。

「あのね。聞きたいことがあって」

「うん?」

「……ユキなら、どう思うか聞かせてほしい」

「ん」

「好きな人がいて。

 将来的に、付き合うのが難しいとか……

 付き合っても、うまくいかないかもしれないとか。

 そういう困難がある場合」

ユキは、静かに聞いている。

「……ユキは、好きなまま、一緒にいる時間を選ぶ?

 それとも、最初からシャットアウトする?」


少しの沈黙。


「……それ、ミナコの話?」

「違うけど……

 ユキだったら、どう思う?」

ユキは、少し考えて。

「……私ね。母がいなくなって、思ったことがあって」

「うん」

「悲しかった。

 でも……一緒にいた時間は、

 一番大切な思い出だったの」

ミナコの頬に涙が、勝手にこぼれる。


ユキは、少しだけ笑った。

「もし、先に母の死を知ってて、

 ……近づかなかったかって言われたら、

 それは、絶対に違う」

胸が、ぎゅっと締めつけられる。

「好きな人や、恋人になると、

 将来とか、責任とか、色々あるのは分かるけど」


ミナコは、涙を拭いながら、ユキを見る。

「……でも。お互いを想ってた時間は、

 あとからでも、消せるものじゃないと思う」

「……」

「大切にされた時間とか、

 大好きな気持ちは、

 過去になっても、ちゃんと大事なものだと思う」

「……そっか」

「だから……

 将来を怖がって、最初からシャットアウトは、

 ……私は、しないかな」

ユキの壮絶だった学生時代を思い出して、

また涙が滲む。

——幸せになってほしい。

心から、そう思う。


 それでも。

(……うん。もし、一瞬だったとしても

 シン君とユキの幸せな時間を、

 私が勝手に閉ざすのは、違う)

きっと、ユキは。

少しでも長く、

彼と笑っていたいはずだから。

——私は、確信した。


-------

金曜日。

ミナコのスマホが震えた。

——ノアからだった。

「ごめん、今ミナコちゃんの名刺見て連絡してるんだけど。

 もし、まだ薬局にいたら……近くの公園で会えないかな?」

「もう家ですけど……」

「がーん」

本気で落ち込んだ声に、思わず苦笑する。

「職場からそんなに遠くないので……

 家の近所の公園でも大丈夫ですか?」

「いいの?」

「まだ八時過ぎですし。大丈夫ですよ」

「ありがとう」


——十五分後。

近所の商店街の灯りが届く、

比較的明るくて安心できる公園で待ち合わせた。

「お待たせしました!」

「ありがとう。わざわざ出てきてくれて」

梅雨入り前の六月の夜風は、

少しだけ湿り気を帯びながらも、心地よかった。

二人で、茶色いベンチに腰掛けた。


少しだけ息を整える、ノア君の細長い腕が綺麗だった。

「……まず、シンの状況から話すね」

「はい」

「これは……秘密なんだけど」

言葉を選ぶように視線を落とす。

「実はずっと不眠症がひどくて。

 過労で倒れて。

 前回のライブ……毎日点滴打ちながら立ってたんだ」

「……そんなに……?」

あのダンスと歌をそんな状態で?

胸が、痛くなる。

——点滴の内容。

——身体への負担。

成分を考えると身の毛もよだつ。

睡眠不足による自律神経の乱れや、

精神的な摩耗もひどそうだ。

ミナコは思わず、じっと固まってしまっていた。

「ごめんね。ここまで話して。

 ……グループの存続自体、正直かなり危なかった」

ノアは、こちらを覗き込んで、ゆっくり続けた。

「……でも、もう俺は、活動とか以前に。

 人として、元気になってほしいんだ」

——必死なんだ。

それが、痛いほど伝わる。

ミナコは、静かに息を吐いた。

「そんな状態だったのに……

 この前の撮影合宿、毎日ちゃんと寝てたって

 マネージャーがびっくりしてた」

「え?」

「起こしても、

 『もうちょっと……』って寝てたらしい」


思わず、息が漏れる。

「この前もさ。

 みんなと会った日だけ、本当にぐっすり寝てて」

少し照れたように笑ってから。

「……しかもさ」急に、ノアが吹き出した。

「この前あいつのパソコン覗いたらさ。

 『女の子と仲良くなる方法』って調べてて」

キャハハハ、とお大笑いのノア君に、

ミナコも思わず、口元が緩む。

(……何それ。かわいい)

「メンバー以外、ほぼ誰とも関わらないし。

 中学生みたいに調べないと分かんない奴なんだよ」

笑っていた声が、少しだけ落ち着く。

「……正直、シンのこと、ずっと深刻だったんだ。

 それがユキさんと会って

 ……急に楽しい感じに変わったんだよ」


——心が、身体を救う。


患者さんを見続けてきたミナコは、

その言葉の重さを、よく知っている。

考え込んでいた、その時。

ノアが、急に立ち上がった。

そして。

——そのまま、地面に膝をついた。


「えっ……!?」

「どうか……お願いです。ミナコ様」

真っ直ぐ、見上げてくる。

「シンと……僕を助けると思って。

 協力してほしい」

「ちょ、ちょっと……立ってください……!」

「絶対くっつけたいとかじゃない。

 二人きりは、本当に大変だから」

手を握られる。

必死な体温。

「グループとか仲良しメンバーで会う時間を……

 作るのを、手伝ってほしいだけなんだ」

——全く。かなわない。

「……分かりました」

「……え?」

「手伝うよ」

「……いいの!?」

「……うん」


一瞬。

それから——

「やったーーー!!」

喜ぶノア君の手を引いて、彼を立ち上がらせた。

「……これ、ひざまづかれて、手握られたから

 OKしたみたいになってるけど

 違いますからね」

そして、ミナコは彼をベンチに座らせて、

自分の気持ちを話した。

「ちゃんと、ノア君の真剣な気持ちが伝わったからですよ。

 グループで会う時間を作るだけなら……ありだと思いました」

「ありがとう、ミナコちゃん!!」

ぐっと近づいてくる笑顔。

思っていたよりも骨張っていて

ゴツゴツした手がミナコの手を包む。

長いまつ毛。

本当に大きくて澄んだ瞳。

(……ミナコちゃんなんて……

 嬉しすぎて死にそう)


「ミナコちゃんさ。

 ファンってこと忘れて、本気で悩んでくれてたよね」

言われて、初めて気づく。

「……お友達のこと、本当に大事にしてるんだね」

「……はい」

「俺たち、すごい数の人見てきたけど

 ……三人みたいな関係、あんまり見たことないよ」

そう言うノアの表情に影が差す。

「……私たち三人が、お互いに真剣なのは

 ノア君やシン君の影響ですよ」

ミナコの言葉に、彼の表情が明るくなった。

「……本当?」

「はい。

 インタビューも、歌詞も。

 いつも全部に一生懸命でいたいって

 みんなの人生背負ってるって言ってますよね。

 その言葉に、ずっと支えられてきました」

ノアは、頬を赤くして笑った。

「……嬉しい。



緑の匂いを含んだ風が、静かに吹き抜けた。

公園の時計は、もうすぐ十時。

「……遅くなってごめん。

 家の前まで送る」

「ありがとうございます」

「——早速だけどさ。

 みんなで会う時間、どう作るか作戦会議だ」

「はい」

少し歩いて。

ノアが、ふと思い出したように振り返った。「……そういえば。

 ミナコ、敬語とタメ語混ざるよね」

「え?」

「もう敬語やめようよ」

「……いいけど。呼び捨てなの?」

「え?ダメ?」

「……私、ノア君より一個上だと思うけど?」

「えーめっちゃ年功序列を重んじるじゃん。儒教主義者?」

「……だって、恥ずかしいもん」

「えーーーウケる!じゃあやっぱミナコで行くわ」

「えー!!」

結局、大事な話は、ほとんど決まらないまま。

それでも

夜道に伸びる影は、

どちらも、少しだけ軽かった。

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