風鈴と缶ビール
仕事帰り、隣の家の灯りに気づいた夜。
缶ビールを飲みながら、あの音が聞こえてくる。
夜、仕事から帰ると、お隣のお婆さんが腕に包帯を巻いていた。
どうしたのかと一瞬思って、すぐに分かった。
カーテンの閉められていない窓。
部屋の灯り。
その窓際に、遺影が置かれていた。
――あぁ、そうなんだ。
チリン。
たまに挨拶を交わす程度の人だった。
元教師だと聞いたことがある。
こちらのことに、やたらと口出ししてくる人で、少し苦手だった。
『痩せすぎだ、これを食べろ』
『少しは身体を動かせ』
そんなことばかり言われていた。
正直、どう返せばいいのか分からなかった。
「こんばんは」
いつも通りに声をかけると、奥さんは俺を見て、ほんの少し口角を上げた。
――いつも、満面に笑ってくれる人だった。
自分の部屋に入り、冷蔵庫を開ける。
缶ビールを一本取り出し、開けた。
そのままベランダに出て、夜風に当たる。
飲みながら、空耳がした気がした。
『若いくせに飲み過ぎだ』
『いつまで独り身でいるつもりだ?』
うるさい声が、頭の中にこびりついて離れない。
ふと隣の家を見ると、奥さんが窓際で、ぼんやりと夜空を見上げていた。
そういえば、毎年バーベキューに誘われていた。
馴れ馴れしくて、正直苦手だった。
それでも――
少年院から帰った俺を、一番に出迎えてくれたのは、あの人だった。
実の親にも見放されたのに。
ビールを一気に飲み干す。
『そろそろ、お前の嫁さんでも見たいな』
――何様なんだよ。親でもないくせに。
『家族がいるってのは幸せだぞ。守るものがあると、生きる気力になる』
――その奥さんを、あんな顔にさせてるじゃないですか。
慰めてあげてくださいよ。自分で。
『今度、またバーベキューやるからな。今度は絶対来いよ』
――今度こそ行きますから。
やってください。
隣で、遠くで、楽しそうな風景は見てきました。
俺も一度くらい、混ぜてください。
缶ビールが空になる頃、隣の家の明かりが消えた。
『お前、挨拶は人としての礼儀だぞ』
「おやすみ、お隣のおじいさん」
――チリン。




