第98話 突入『青水晶の洞窟』
トールが先頭で左に折れ脇道に入る。
聞いていた話の通り、目前50メートルほど先に大きな岩肌が見えた。
魔物は断続的に湧いているようで、5~8匹ほどを斬り伏せると、しばらく走ってまた10匹足らずの集団にぶつかるという感じで進んでいく。
魔物の行動自体は、トールたちに向かってくるというよりは村へ向かっているという様子の為、斬り逃したものは村で守っている人たちに任せるつもりで追わず、ただひたすらに前進することに専念する3人は、数秒で岩肌の目前に到達した。
「トール、ここだな!」
ジュエレーがトールの背中から声を掛けてくる。
トールはその問いには答えず、いくぞとだけ返し、構わずに岩肌に入る亀裂に向かって飛びこんだ。
「灯火!」
と、短い詠唱句の後、その洞穴の中が明るく照らされる。ラムが発光魔法を使用したのだ。
中はそれほど広くない通路が奥に向かって一直線にのびている。
一本道の為、遭遇した魔物を狩りつつ進めば、村へ向かう数も減るはずだ。そうすれば後詰の冒険者たちも前進を開始でき、そのうちこの洞窟の入り口にまで到達することだろう。
「トール、湧いたぞ!」
ジュエレーが目前でもやもやと湧き上がる黒い靄を指さして言う。
魔物の生成される瞬間なんてあまり見ることは無いのだが、倒した後も現れるあの靄が、生まれる際にも湧き上がるのだとトールは初めて知る。
数瞬後にそれは人型に近い形を象り、やがて6体のゴブリンが生み出された。
ゴブリンたちは湧き上がるとともにこちらに向かって駆けだした。
「いくぞ!」
トールは叫びつつ前進し、ラムに向かって剣の形状を『ショートソード』に変えてくれるように念じる。
すぐに反応したラムは、トールの右手の先の剣の形状を、大剣から剣身が80センチほどの短めの直剣へと変化させた。
状況によって剣の形を変化させることは、最近の狩りの際、何度も試してきたことで、狭いところでは『短直剣』、広い場所で大量の敵を相手取るときは『特大剣』、比較的広い場所で数匹程度と対峙するときは『長直剣』と3つの武器を使い分けている。
トール自身もそれぞれの武器の特性を生かせる剣技の基礎をジュエレーに叩き込まれながら、日々実践に明け暮れてきた。
今いるような狭い場所では、長い剣や大きく重い剣は特性を生かせず充分な威力を発揮できない。
普通は、目的や場所によって武器を取り換えたり、主戦武器の熟練度を上げて、できる限りその威力を引き出すかしなければならないのだが、その点、『ラムの剣』は無限大の汎用性を有していると言っても過言ではない。
何と言っても、ある程度の武器なら『造形』して、生み出すことができるからだ。
『ある程度』といったのは、ラムが一度は『造形』したことのあるもの、という制限があるからだ。
他に、魔物討伐ののち『取り込み』を行った際に稀に特定武器の『造形』スキルを獲得するらしい。先程までトールが握っていた『特大剣』がそれだ。
「取り逃がしたものは捨て置け! 目的地まで一気に進む!」
言いながらトールはすでに3体のゴブリンを斬り伏せていた。




