第91話 トールの成長
ふん――!
と、トールがその右腕の剣を一振りすると、【オーク・ウォリア】の首が飛んだ。
切れ味が半端ない。
まるで、「プリン」を切るかのような手ごたえの無さで、するりと刃が走っていく。
トールが初めて「プリン」というデザートをたべたのは、つい先日のラジュランジへの休暇の折のことだ。
身は甘く、頭にほろ苦いソースがかかっていた黄色く冷たい食べ物だったが、スプーンを入れると、程よい弾力を指に伝えながらも、すぅっと切ることができた。
女性陣は、そのおいしさに頬を緩めていたが、トール自身にとってもかなり満足度の高い一品だった。
もちろん、オークの首とプリンは似ても似つかないものであるし、切り落としたとしても到底食欲をそそられるものでもないが、ただ、剣の切れ味が相当あがっていると感じたのだ。
「ファイア・ボール!!」
ジュエレーが叫んだ瞬間、トールの左側で一体のオークが炎に包まれる。
彼女自身は自分の幅を広げるために、「魔法」の修練に明け暮れているが、それでも、火急の時は両腰に差している短剣を引き抜いて風のような速さで敵を瞬殺していく。
「アイス・バインド――、スラスト・カッター—―」
右ではラムが、オークの足を氷漬けにしておいて動けなくなったところに、風の刃を発生させて、腹から上と下に二つに分断してしまった。相変わらず無慈悲なほどの火力の高さである。
「これで終わり、ですね。お疲れさまでした。さて、戻るとしましょうか」
と、ラムがトールとジュエレーに向かって声を掛ける。
トールは、目の前で黒い靄となって消えたオークを確認すると、あとに残った魔石を拾いながら、
「ああ。なあラム、剣の威力がとてもあがっている気がするんだが、どうなっている?」
と、少し気になった『剣の状態』について問いかける。
「ええ。剣の材質向上のため、『再定義』を掛けてみたんですよ。どうですか? 随分と変わったと思いますが」
「リストア?」
「はい。ものを象るときに、そのものの材質に関する情報を定義する必要があるんですが、それを再度行ってみたということです」
「良く分からんが、使い勝手もいいし、切れ味もいい。まったく文句がないどころか、とてもよく切れるぞ。ありがとう、ラム」
「いえ。トールさんの実力が向上しているので、硬さや重さも変えていかないといけないですから。それに、私、こう見えて結構器用なんですよ」
そう言ってラムが微笑む。
たしかに、器用である。というよりも、とんでもなく有能だ。
冒険者登録してパーティとなった3人だが、この中で一番実力的に下なのは、トール自身であると、充分に理解している。
戦闘時の取り回し、瞬時の判断、危機の管理、パーティの状態把握、複数敵の場合の討伐優先順位などなど、トールも全体把握に努めるようにと言い含められているため、気が付くことも多いのだが、それでも間に合わないことはそこそこ出てくる。
その場合の二人の行動はひとつひとつ的確で無駄がなく、そして最善の結果を導き出している。
そのあと、ジュエレーから雷鳴のような叱責が飛んでくることになるのだが、とはいえ、べつに殺されるわけでも、貶められるわけでもないため、トール自身はその叱責を糧に成長していけていると自覚できている。
「トールもずいぶんよくなってきたよ? 切れ味がいいのは、『ラムの補助』のおかげだけじゃないと言っても問題ない。動き、捌きにも余裕やキレが出てきている」
思いがけない『師匠』からの誉め言葉に、トールは少し気恥ずかしくなる。
「――そうか。それなら、良かった。すこしでも二人に近づけるよう、俺は日々頑張るしかないからな」
やや恥ずかしさに圧されながら、自分の成長にも満足するトールだった。




