第83話 ジュエレーの恩恵
実際、剣術指南が必要かどうか、ラムは少し悩んでいた部分があった。
トールさんが習いたいと言えば、そうさせるつもりだったが、そうでなければ我流でもいいのかと思いもしていた。
かといって、道場などに通っている時間的余裕はないとも思っていたところだ。
その理由は、トールさんの年齢だ。
人間の活動期間はそれほど長くはない。
トールさんもおそらくのところ、長くて100年といったところだろうが、老化も考えれば、活躍できるのはあと30~40年といったところだろう。
それまでに、『目的』を達成しなければならない。
トールさんがまだ10代とかであれば、体の成長に合わせてゆっくりと修練を積んでいくのもよかっただろうが、25歳ともなれば、本来はすでに一線級で活躍していてもおかしな年齢ではない。
ここで、3年や5年、実績を積まずに修行に明け暮れているなんて余裕はないのだ。
5年も過ぎれば、30歳になってしまう。
それから実績を積むなんて、さすがに遅すぎて、冒険者としての峠を越えてしまうだろう。
それに――おそらくこれはラムの勘だが――、トールさんは基本的には我流でも充分強くなれると思っている。
それは、『英雄の萌芽』という素質の恩恵があるからだ。
だが、残念なことに、冒険者へと転じるのが遅すぎた。つまりは、今から我流でやったとしても、ある程度までは成長するだろうが、冒険者としてのピークが訪れる前に年齢のピークを過ぎてしまい、「そこそこ実績を残した冒険者」程度で終わる可能性の方が高い。
それゆえに、剣術指南が必要だという結論に至っていたのだが、冒険者活動をしながら剣術を指南してくれる、そんな都合のいい人材になど心当たりがなかったのだ。
――ジュエレーとの再会は今にして思えば、「幸運」だった。
ジュエレー・ノルの実力は、対峙したラムにはよく分かっている。
ラムとの対戦では、ラムが圧倒して、ジュエレーに付け入る隙を与えなかったが、実は、ラムには対象の素質を見抜く『鑑定眼』という特性がある。
トールの素質を見抜いたのもその特性のおかげだ。
それによれば、彼女の剣士としての実力は、相当程度に高い。
おそらくは冒険者クラスで言えば、『白金級冒険者』ほどの力は充分にあるだろう。
この間トールさんが対峙したあの『鑑定人』や、ギルマスよりもおそらく数段強い。
トールさんに必要なのは、「基本」だ。
この間のギルマスとの訓練で、その「基本」については繰り返し反復練習して、すでに『剣豪』への道を歩み出している。
次に必要なのは、『実地訓練』、つまりは、実戦内における剣の扱いと体の動かし方、位置取りなど、実戦における基礎的な考え方・動き方などの指導だ。
そういう意味で、ジュエレーはトールさんの「師匠」として申し分がない。
――でも、それもあっという間でしょうけど。トールさんの成長力は目を見張るものがありますから、ジュエレー程度に追い付くのはそうそう時間はかからないはず……。
「その時」が訪れたあと、ジュエレーがどうするかは彼女次第というところだ。




