第80話 ラムとジュエレー
「それで? あなた、一体何をたくらんでいるのですか?」
ラムは、隣で同じように湯船の湯に浸かっているジュエレー・ノルに問いかけた。
「――え? 言っただろ? あんたたちと一緒にいるほうが安全じゃないかって。ラムディエル、あんたとんでもないバケモノだな……。バーミエッタさまもバケモノだとは思うけど、あんたも同等だよ」
ジュエレーがそう答える。
それは分かる。
つまり、単独で逃避行した場合、追っ手を逃れるにも自力で何とかしないといけないが、ラムたちと一緒に行動していれば、ジュエレーだけを放り出して好きにしろとは言いにくくなる。
結果的に、ジュエレーにとっては身の安全が保証されるわけだ。
しかし、バーミエッタをよく知るラムは、バーミエッタがそんなことに手を尽くすことはしないと知っている。むしろ、この先もラムに対して追っ手を放ってくるとなれば、こちらと行動を共にしていることの方が危険度は高くなるともいえるのだ。
「それは聞きました。でも、それについてはすでに見解を伝えていますよね。バーミエッタは、あなたなど相手にしませんよ」
「だからだよ――。私は、将来、『魔将』になって、魔王選定戦に出場するつもりなんだ。このまま逃げてるだけじゃ、その目的は達成できないからな」
「本気なのですか? あなた。幾らなんでも……」
「わかってる! あんたとやり合って、いかに自分がまだまだ弱いかは身にしみたつもりだ。だから――、ラムディエル。私を鍛えてください!」
「ええ~!? いやですよ。私、今はトールさんで手いっぱいなんです」
「だから、私がトールを鍛えるよ。トールは人族だろ? 私は『幻族』なんだけど、魔法があまり得意じゃないんだ。私がトールに剣術を教えるから、代わりに私に魔法を少し教えてくれないか?」
なるほど、交換条件というわけか。
たしかに「剣術」の指南と言われれば、ラムディエルは指導できるほどの技術を持ってはいない。
そこについては、いつかのタイミングで、しっかりした指南役に教えを乞う必要があるだろうとは考えていた。
(ふむぅ――、勝負はあんな形になったけど、この子の身体のさばきや剣筋に素質を感じさせられたのは事実なのよね……。確かに今のトールさんにはちょうどいい指南役かもしれない)
「ふぅ――。わかったわ。じゃあ、少しの間、「トールさんの剣術指南」をお願いしようかしら」
「ほんとに!? よし、やったぞ! じゃあ、そういう事で、これからもよろしく、ラムディエル、あ、いやラム師匠!」
「そういうのいいですから。ラムでいいですよ。その代わり、魔将に昇格して魔王選定戦に出るというのなら、最後は私と戦うことになるんですよ? 理解できてますか? 私は容赦はしませんよ?」
「その時はその時。ラムディエルと私が最後に残ってしまうようなら、その時は、そこで辞退します」
ラムディエルは、ふぅと大きく溜息を突く。その息にあおられ、湯面の上の湯気がふわりと舞った。




