第75話 ラムの生き様
「どんな生き方――ですか……。なんと言えばいいのでしょう。私はただ、人族と魔族の融和を目指してきただけですかね――」
ラムがトールの質問の意図がわからないふうで答える。
「――その中で、人として生活していた時期もある、ということか?」
トールが聞きたいのはそこだ。
つまり、魔物の中には、人間の中に紛れ込んで普通に生活しているものもいるのかということだ。
「幻族」の中にはそういうものがいることをすでにトールは聞かされている。
それは、彼らの容姿がそもそも人族のそれと大して差がないからわからなくもない。
が、「魔物」はそうはいかない。
やつらの容姿は明らかに異形であり、人間が感知する「動物」たちとも明らかに違うと、一目でわかる。
――それに何よりも、言葉が通じない。
「ああ、そういうことですか。そうですね。私は一時期、人族の者たちと一緒に行動していましたし、もちろん、世界中を回ったり、いろいろなものを食べたり、いろんな人とお話したりしてましたから」
でも――。
「――それができるのは私だからですよ? 私が知る限り、人族の中に紛れて生活している魔物なんて、他にはいませんよ」
やはり、トールの心配は杞憂だったようだ。
つまり、言葉を話すことが出来る「魔物」はラム以外には存在しないと、そう言っているのだろう。
前にラムが話していたことを思い出す。
彼女はまず「知性」を獲得し、その後、「言葉」も話せるようになったと言っていた。
しかし、悠久の時の中で、多くの人族を殺してきた魔物は、ラムだけではないはずだ。それなのに、ラム以外に「知性」や「言葉」を獲得した「魔物」がいないというのはどうしてだろうか。
「なあ、ラム。お前以外の魔物が「知性」を獲得する可能性はないのか?」
トールは核心を突いた質問を投げてみる。
「そうですね。私が能力やスキルを獲得できるのは、『スライム』だからというよりは、『私』だからと思ってもらった方がいいと思います。たしかに「獲得」という特性はスライム固有のものでしょうが、ほとんどのスライムは、「獲得」特性が発動するずっと前に殺されてしまいますから。おそらくのところ、「知性」を獲得することのできた個体は私が初めてで最後だと思います」
ラムはそうあっさりと言ってのけた。
「知性をもち、これまで多くの経験をしてきたお前は、魔物を殺すことや人族や幻族を殺すことに躊躇ったことは無いのか?」
トールは少し踏み込んだ質問をしてみた。
「知性」を持つものであれば、「生命」の儚さや貴さというものにもいくらか想いが芽生えるはずだとそう思うからだ。
もちろん、人族の中にはそんなものを全くいとわないものも多く存在しているが、多くのものは、初めからそうであるというわけではないだろう。
皆、何かしらの要因があって、そうなるものだと、トールは思う。もちろんだからと言って、そのような輩に情けを掛ける必要は無いとも思うのだが。
「――トールさん。私は今でも躊躇っていますよ。ですが、長い年月をかけて、今の私が辿り着いた結論が「ここ」なのです。これでもダメなら、その時はまた違う方法を模索するだけです」
ラムは、トールの方に視線を向けず、遠くの露店の灯りを眺めながらそう呟いた。




