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第73話 トールさん、知りませんからね?


 ピキキッと音を立てて、『氷の槍』と天井の接合部に()()が入り、氷柱つららがジュエレー・ノルの上半身に向けて今にも落下しようとしている。


 氷柱の大きさはゆうにジュエレーの胴体の幅を超えているため、命中すればジュエレーの体は真っ二つに分断されてしまうだろう。


 ジュエレーは可能な限り身をよじるが、腰から下、腹のあたりまで氷漬けにされているため、胴の可動範囲はたいして大きくない。

 あの大きさの物体を避けるほど動かすことは到底不可能だ。


「くっ! ラムディエル! お前、()()だぞ! 正々堂々勝負しろ――!」


 と、とりあえず根拠のない言葉を投げてみるが、当のラムディエルは顔色一つ変えず、


「卑怯って……。もしかして『魔法』のことを言ってるのですか? あなたが剣を使って敵を殺すように、私は『魔法』を使っただけですよ? それぞれの武器に性能の違いがあるのは当然のことじゃないですか。ただ、あなたの技術が私より劣っていただけ。あなたもこれまでそうして魔物や人間を殺してきたのでしょう?」


と、応じる。


「くぅ――! 放せ! ラムディエルぅ—―!! 頼む!! 殺さないで――」


「命乞いなんて、聞き入れるわけないじゃないですか。さあ、時間です。痛みを感じる暇もないでしょうから安心して受け入れなさい――」


「ああ、ああああ――!! やめてくれ――――」


 ぴきんっと非情な音が響き渡り、氷柱が天井から放たれた。


 ジュエレーは、仰向けのまま、身をよじりながら目を閉じる――。



 ビキィイイイイイイン――!!



と、言う衝撃音。そして、ジュエレーが待つ()()()()は、訪れなかった。



「トールさん!! どうして、止めるんですか!?」


 ジュエレーの視線の先でラムディエルが叫ぶ。そのラムディエルが視線を投げている方へと振り返ると、あの男が、剣を片手に立っていた。


「ああ、悪い。なんか、思わず――な」


と、その男、トール・レイズが答えた。


「――なんていうかその、言葉が通じるってのは厄介だな。魔物だったらそんな感情は湧かないんだろうけど……」


と、バツが悪そうに続ける。


「まったく――。トールさんは人が良すぎます。まあ、そのおかげで私も今ここにいることが出来てるわけですけど……。わかりました――、あなた!」


 トールにそう答えつつ、ジュエレーの方にキッと視線を向けるラムディエル。


「はいぃ!」


と、思わずジュエレーは返答してしまう。


「このまま、どこかへお逃げなさい。任務に失敗したあなたは、バーミエッタのところになど戻れはしないでしょう。このまま逃亡してしまえば、あなたのような小物、バーミエッタも相手になどしないでしょうから」

と、ラムディエル。


「わ、わかった! もう、お前たちに手出しなんかしない! どうせ勝ち目はないって、今のでよくわかったから……」

と、ジュエレーは答えるしかない。

 だって、そうだろう? あんな巨大な氷柱を剣一本で粉々に砕く剣士も加わったら、もう絶対に自分に勝ち目なんて無い。

 それに、ここで仕掛けたとしたら、もうさすがに次の命乞いは通用しないと分かっている。


「――わかったら、行きなさい。ほら、戒めをいてあげるから……。まったく、トールさん、知りませんからね?」


「ああ、すまない。ラム」


 そんなやり取りの後、ジュエレーを捕えていた氷の戒めがほどかれた。


 ジュエレーは、足の感覚を確認すると、二人に背を向けて、一気に走り去った。



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