第72話 ラムの実力
ジュエレー・ノルはラムディエルの話を聞いて、ありえない話ではないと思いはじめている。
が、それは『ある仮定の上に立てば』という条件付きだ。
その仮定とは――。
「お前の話はなるほど的を得ているように聞こえる。が、それは、私がお前より弱いという前提での話だ。そうでなければ、お前の話は成り立たない。私がお前に勝てばいいだけの話だ」
ジュエレーはそう結論付け、構えをとる。
「――はあ、やっぱりおバカさんというところは合っているようですね。いいでしょう。私の実力の一部をお見せしましょう。そのかわり、後悔してからでは遅いかもしれませんからね?」
「言ってろ――!!」
ジュエレーはもう躊躇わなかった。
仮にバーミエッタが自分を嵌めたとしても、それはあくまでもラムディエルに返り討ちに遭えばという前提の話だ。
打ち倒してしまえば、それはそれで何も問題はない――。
ラムディエルに斬りかかろうと地面を蹴る。そして一気に間合いを詰め――。
――られない? だと?
ジュエレーは剣を横薙ぎに一閃するが、すでにそこにラムディエルはいない。
ラムディエルもまた、ジュエレーの動きに合わせて、飛び退ったのだ。
「おい、ラム。本当に手出ししなくていいんだな?」
男、トール・レイズが言葉を放った相手は、そのトールの脇に立つラムディエルだ。
「大丈夫です。まあ、魔力貯蔵量はまだ10分の1も満ちてませんが、このぐらいの相手、私一人で充分、いや、赤子の手を捻るようなものです――。そう言えばトールさんは、私が戦うのを見るのは初めてでしたね?」
「ああ、でも、お前がそういうのなら大丈夫なんだろうさ――」
二人の会話がジュエレーの耳にも入る。
「赤子の手、だと――? お前、私を舐めるなよ――え? 足が……いつの間に!?」
ジュエレーは自身の左脚が凍結されていることに今になって気が付いた。
足首から先が、地面に氷漬けにされている。
「ほらほら、今のに気が付かなかったってことは、これが足じゃなかった場合どうなるのでしょうね?」
「くぅ! なめるなぁ!!」
ジュエレーは、無理やりに氷漬けの足を引き抜く。ばりん!という音を立てて、きらきらと氷の粒をまき散らしながら、ラムディエルの眼前に迫った。
(今度は、獲った――)
今回はラムディエルの顔が目前にある。そして狙いすました一撃は、すでにラムディエルの胴に向かって放たれている。
斬れる――。
そうジュエレーは確信した。
「はあ、やっぱりおバカさんですね。そこは私の領域ですよ?」
ラムディエルの声が耳に届くと同時に、足元からぶわぁっと冷気が巻き上げる。
(くぅ!? でも、私の速さがあれば――避けれる、は、ず……)
ジュエレーは剣戟への集中を切って、後方へと跳び下がることに全力を掛ける。
ぬおお! ぬけろぉ――!!
体の上半身部分は、冷気のカーテンから抜けることに成功――。だが、下半身は間に合わなかった――。
ジュエレーは後方に仰け反った態勢のまま下半身を氷漬けにされ、完全に地面に釘づけにされてしまっている。
そして、仰け反った上半身で天井を見上げる形になったジュエレーは、その天井にぶら下がっている巨大な半透明の『槍』を見て驚愕した――。
「氷柱――??」
「ええ、間もなくあなたの体の上に降ってきます――。だから言ったでしょう? 後悔しても遅いですよ、って」
ラムディエルの冷ややかな声がジュエレーの全身を駆け抜ける。その声はあまりに冷たく残酷な宣告だった。




