第71話 「フード女」ジュエレー・ノル、あらわる
「さて、戻るか――」
トールがオーク・ロード・タルシスが霧散してゆくのを見届けたあと、そう言って部屋の入り口へと向かおうとしたその時、部屋の入り口の方から、いきなり女の声がした。
「ほぉ~、なかなかやるじゃないか? あれを一撃で討ち果たすとはな――」
扉のそばにフードを被った小柄な人物が立っている。
「ああ、ありがとう。――てか、君こそ、いつからそこにいたんだ? まったく気が付かなかったぞ?」
トールは歩みながら、そう返す。
『トールさん!! 止まってください!!』
頭の中にラムの声が響く。トールは、思わず立ち止まる。
『敵、なのか?』
『「幻族」です――。ここは私に任せて』
『ああ、わかった――』
短いやり取りの後、いつもはトールのやや後方を歩いているラムが、トールの横を追い越して前に出た。
「――あなた、幻族ですね? 私たちの後を追って来てたでしょう? 目的は何?」
ラムがそのフード女に短い問いを投げた。
今の言葉を聞く限り、ラムは少し前から「彼女」がトールたちの後をつけていたのを知っていたようだ。
「目的――ね。お前がラムディエルか?」
そのフード女が問い返す。この女、ラムの名前を知っている。
「こちらの問いに答えてませんね? 問いかけたのはこちらが先ですよ?」
「そうだったな――。私の名前は、ジュエレー、ジュエレー・ノルだ。ラムディエルを追っている。バーミエッタさまの命令でな」
「なるほど――。それで? 私がそのラムディエルだというのですね? ――残念ですが『人違い』です。私はラムディエルではありません」
「ははは、なかなかジョークのうまいやつだ。そちらこそ残念だったな。調べはすでについている。付添人ラムディエル、それと、冒険者トール・レイズ。二人にはここで死んでもらう――」
そう言うと、フード女は腰からすらりと剣を抜き放った。
「どうしてもやるというのですか?」
「ああ、ラムディエルを討てというのが、バーミエッタさまの命だからな」
「トールさんは関係ないはずです」
「――ああ、そうだな。本件とは関りがない。が、私は強いやつを殺すのが趣味なんだ。ラムディエル、お前を殺した後は、その冒険者を殺して楽しむつもりだ」
「なるほど。『昇格』目的ということですか。あなた、まだ、『軍団長』にすらなってませんね。そんなあなたが、私を倒すですって? バーミエッタがあなたを私のもとに送った本当の理由をあなたは理解すらしてないのですね」
「どういうことだ――」
「はあ、なんておバカさんなのでしょう。バーミエッタは姑息な女ですよ? 将来自分に成り代わって『魔将』になろうなんて考えている部下など、必要ないんです。それで私のところへあなたを差し向けたというわけです」
「つまり、私を始末する目的で、ということか――」
「バーミエッタは、私のことをよく知っていますからね。今のあなたが倒せる相手ではないと、もちろんわかっているんですよ。その上であなたに「命令」を下した。ラムディエルを殺せ、と」
ラムのペースになってきている――。
トールは二人の会話を聞いていてそう思っていた。




