第63話 訓練の後に来るものは
訓練開始の日の夜――。
トールは体のあちこちに痛みを感じていた。
今日初めて、「剣術」を習った。とは言っても、本当に基本の基本、剣の持ち方と上段からの振り下ろしのみだが。
しかも、素振りだけだ。
まずは、掌が肉刺だらけになり、肩や腰、太ももやふくらはぎなどの筋肉痛、腕もだ。
今朝はどこも痛くなかったから今日は持ち堪えられたが、明日からはこの痛みに耐えながら訓練に打ち込むことになる。
「ててて……。結構あちこちが痛いな」
小屋に戻った二人は、夕飯を採っているところだ。
「これまで使っていなかった筋肉を使っているからでしょうね。でも、痛みは一時的なものですよ。すぐに治ります」
と、ラムが気にするなという。
「ああ、それはわかってるよ。木こりを始めた時も毎日がそうだった。それがいつからか痛まなくなっていた。筋肉を動かすってなかなか難しいものなんだ。普段から全身を使っているつもりでも、意外とそうじゃないんだよな――」
そんなことを話しながら、食事を進めている。
結局のところ、サンザーレの街を出るのはまだ少し先になりそうだ。
『基本戦闘訓練課程』は全7日間の工程だ。
その7日間のうち一日目が今日だった。
つまりあと6日――。
この間、ギルドのクエストをこなすのは難しい。つまりは報酬はゼロということだ。
まあ、これまでの蓄えで何とかなる日数だから、そこは問題ない。ただ少々、食事を調整していかないといけない事には違いない。
「――すまないな、ラム。今日から少し食事の量が減ることになる。少しの間、辛抱してくれ」
「え? ああ、気になさらないでください。そもそも私の方が居候のようなもので、何も稼いでいませんから。むしろ、いつも二人分ご用意くださってありがとうございます」
そう言ってラムは、恭しく頭を下げる。
こういう仕草を見るたび、トールは不思議な感覚に包まれる。
本当にこいつは「魔物」なのだろうか、と。
ラムの話によると、おおくの人間を取り込んできた結果として「知性」を獲得したという。つまり、「魔物」には「知性」が無いということなのだろうか。
「知性」が無いものがどうやって行動するか。おそらくそれは「本能」の働きによるものなのだろう。
そこに「意志」や「意識」が存在するのか、トールにはもちろんわからない。
「――なあ、ラム。少し聞いていいか?」
「はい、トールさん。お答えできるものはお答えしますよ?」
そもそも「魔物」と「幻族」、「人族」って何がどう違うんだ――?
ラムはこの問いに、カトラリーの動きを止め、しばし思考する。
視線をやや斜め上に向け、人差し指の先を顎のあたりに当てる仕草など、まったく人族のそれと差がなく自然だ。
「――そうですね。それに「動物・植物・虫」などを加えて、私なりの答えですが、解説してみましょうか?」
ラムはそう言うと、まだ少しだけ皿に残っていたスープを平らげた。




