第62話 ジュエレーの目的
「逃がしたか――」
「フード女」こと、ジュエレー・ノルは空を飛び去っていく影を見ながら呟いた。
まあ、いい。あれは、偶然出会った獲物に過ぎない。今回の標的はあれではないのだ。
今回の任務は、一週間ほど前に消息を絶ったウェア・ウルフたちが追っていた、ラムディエルというスライムの追討である。
バーミエッタさまがどうしてそこまでその「スライム」に固執なさるのかはわからない。が、追って殺せと命じられたからには、理由などどうでもいい。
単純な話、手柄を上げれば、それで一歩ライバルたちに差をつけることができるのだ。
ジュエレーの目的は、バーミエッタに取り入って、戦果を獲得し、ゆくゆくは「魔将」となることだ。
そして、私は、「魔王」になる――。
「魔王」となるには、条件がある。
「魔王選定式」に出場し、バーミエッタはもちろん、他の二人の「魔将」を倒す必要があるのだ。
もちろん今は、そんな「力」を持ってはいない。
しかし、幻族や魔族の特性は、殺した相手の「魔力素」をいくらか取り込んでいくことができるというものだ。
つまりは、多く殺せば強くなるという、単純明快な論理である。
もちろん、そうやって獲得できるのはあくまでも「魔力素」だけであり、それだけで強くなれるわけではない。
ただ単純に「魔力素」を取り込むことだけを言えば、それは食事を摂ればいいだけのことで、それだけでも充分に成長はする。
人族は相手を殺しても「魔力素」を取り込むなんてことは出来ない。人族が「魔力素」を摂取で出来るのは「食事」からだけだ。それでも、『英雄』が生まれたりするのは、彼らの成熟速度が、幻族や魔族に比べて圧倒的に速いからだと、バーミエッタさまは仰っていた。
幻族や魔族の寿命は長い。
しかしその分、成熟速度は遅くなる。
人族と同等以上の成熟速度を達成するためには、「殺す」必要があるのだ。
魔物同士が生まれた瞬間から同族であろうとも殺し合いを始めるのは、いわゆる、本能の一部とも言える――。
幻族が魔物のように生まれてすぐに殺し合いを始めないのは、「高い》知性」を持っているからだと、バーミエッタさまが言っていた。
基本的に魔物どもは「知性」が無いに等しい。
それが故に、本能的な行動にはしるのだと、そういうことだろう。
――多く殺すにしても限度があるからな。
ではどうするか――。
強いやつを殺すのだ。強い個体ほど「魔力素」の量が多い。
では、強いやつをどうやって探すのか?
バーミエッタさまに認めてもらえばそれだけたくさん強いやつを殺せと命じられることになる――。
つまり、成果を上げれば上げるほど、強くなる速度も上がるというわけだ。
(さっさと今回の任務も片付けて、バーミエッタさまに次の標的を教えてもらわないと)
ジュエレーは、そう気持ちに区切りをつけると、ウェア・ウルフの群れが消えたサンザーレの森を目指して、再び歩き始めた。




