第61話 アドルフィーネ対フード女
アドルフィーネは腰の剣を抜き放ちながら、咄嗟に間合いをとろうと飛び退る。
が、フード女の剣撃の速さに、下がっただけでは躱しきれないと察し、剣で相手の剣戟を往なした。
キィイン――と、甲高い金属の衝突音が響き、アドルフィーネの利き腕に衝撃が走る。
大丈夫――、剣先はアドルフィーネの身体には届かなかった。
アドルフィーネは飛び退りながら後方宙返りをすると、着地と同時に間合いを詰める――。
シュバッシュバッと、水平切り二連。
これは、カンカンと難なく弾かれる。
しかしながら、アドルフィーネはそこで終わらない。フード女が二連で止まると予測し、返しの一撃を繰り出そうと剣を引くのに合わせ、少しだけ、タイミングをずらした三撃目――。
もう一歩さらに踏み込んだアドルフィーネの横薙ぎは、フード女の胴を完璧に間合いの中に捉えている。
(もらったぁ――!)
アドルフィーネは次の瞬間に伝わってくる相手の肉の感触を確信していた。
が――。
どすっという重い感覚がアドルフィーネの腹を貫く――。
剣先は急減速し、ふらふらとフード女の胴の前を通過した――。
「な、ん、だと――?」
アドルフィーネは自分の腹に視線を落とす。すると、胸当ての下、素肌になった部分が真っ赤に血で濡れ、そこには一本の短剣が刺さっていた。
「ぐぅあああああ――!!」
一瞬遅れて激痛が全身を駆け巡る。アドルフィーネは思わず悲鳴を上げてしまった。
「ぐ、ぐ、こ、のアマァ! やりや、がったな……」
アドルフィーネは苦痛に顔をゆがめながら、腹を抑えつつ、フード女の顔を見上げる。
赤い瞳――。それに薄い唇が印象的な美少女だった――。
なるほど、妙に体の線が細いと思っていたが、この年齢なら――。
「ガキか――?」
「ふん。失礼な――。これでもお前の倍以上は生きてるぞ? さて、最後にせめて名を名乗る機会をやろう――」
「く、出来れば、一瞬であの世、に送ってくれると助かる、が――?」
「いいだろう。人族にしてはなかなかの腕だった。それに免じて楽に送ってやる――」
「ああ、頼む。私の名は――」
言いながらアドルフィーネは前傾姿勢を取り、自身の首をさらす――。
「――アドルフィーネ・マインツァ、だぁ!!」
言うなり、アドルフィーネはがばあと体を起こした。
その瞳は真紅に染まり、口は奇妙に裂け、牙が頬を突き破る。
そして背の革鎧を突き破り、黒い翼が生えた――。
「お前――、魔術師か――!!」
フード女が慌てて間合いを取ろうと飛び退る。近距離攻撃魔法を警戒しての動きでそこは素早い!
が、アドルフィーネの目的は達成された。
この瞬間、変身を完了したアドルフィーネは、ばたたと背の翼をひらめかせると、一気に大空へと舞い上がった。
アドルフィーネはあらん限りの力を振り絞り、懸命に疾駆する――。
山を越え海が見えた。
そしてその先に見えるのは、レイシュタル――。
銀色に輝く尖塔が夕日に照らされてややオレンジ色に輝いているのが見える――。
(あそこまで、止まるな――! 頼む、もってくれ……)
そう願いながら空を走るアドルフィーネだったが、どのあたりからか記憶が飛んでしまっていた。




