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第60話 峠で出会う


 トールがギルドマスター・カインとの訓練を始めた頃、アドルフィーネは、レイシュタルの統一王朝へと馬を飛ばしていた。


 街道は森を抜け、野原を走り、山を越えようとしていた。


(この山を越えたら、海が見える――。レイシュタルまではもう少しだ)


 その峠の頂上に差し掛かろうとしていた時、街道の脇から一人のフードを纏った人物がふらりと現れた。


「――!! ぶつかるっ! ふん!」


 アドルフィーネは衝突を避けようと必死で手綱を引き、馬の首を右へ捻じ曲げる。


ひぃぃん――!


と、悲鳴を上げた馬が足を緩め、やや右に傾倒するが、やはり衝突は免れないと覚悟した。


 その瞬間、アドルフィーネの体が不意の浮遊感に包まれる。


「なんだと――!」


 アドルフィーネは馬から弾き飛ばされ、宙を舞っているのだ。馬は――。


 空中を漂いながら態勢を制御し、自身が乗っていた馬の状況を確認する。


 馬は、横倒しに地面を滑り、数メートル先で4本の足をばたつかせている。が、その足の長さがおかしい。


「足を斬ったのか――」


 アドルフィーネはなおも空中を漂いながら、あの人物の姿を探した。その人物は街道の中央に立ち尽くしたまま、片手には気妙な形をした「剣」を握っている。


 アドルフィーネは着地すると、その人物に向かって吠える。


「急に飛び出てきたのはそっちだろう! 私の馬をどうしてくれる!」


 明かに気が高ぶっている。

 言いながら、アドルフィーネは、奇妙な高揚感に包まれている自分を感じていた。


(コイツ、なんだ――?)


 フードの人物――。女、だ。


 しかし、フードを深くかぶっているため、フードの間からかろうじて見える体のラインを見てそう判断したに過ぎない。表情は見えないままだ。

 しかし、その身に纏うフードとは別に明らかに異様な闘気オーラを感じる。


 相当強いな。エルフ――か?


 いや、それとも――。


幻族げんぞく――か」


 アドルフィーネはそう誰何する。


 「幻族」という言葉を知る者はさして多くない。統一王朝に()()()のある一部のものを除いては、この種族名を口に出すものはほとんどいなくなっている。

 大抵は、「魔族」という、魔物と「幻族」をひとくくりにした呼び方をするのが一般的だからだ。



「――だったら、どうする?」


 その女が、見た目とは裏腹な美しいメロディを奏でるように返してくる。

 声色に微妙な旋律が載せられているような、そんな不思議な声だが、しっかりと標準語をしゃべっている。


「おまえ、統一王朝の手のものか――。ここで会ったのが運の尽きだな。統一王朝は我らの敵――。敵は殲滅する!!」


 言うと同時に、そのフード女がアドルフィーネの眼前に迫った。


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