第53話 アドルフィーネと木こり
アドルフィーネはカインに聞いたとおり、サンザーレからトールの木こり小屋へ向かう。
といっても、徒歩ではない。
馬だ。
馬はこの地域ではなかなかに高価なもので、希少性も高い。その為、統一王朝直属の特定のものにしか付与されていない。
昨晩遅くに統一王朝の特命を受けたアドルフィーネは、その足で馬に跨り、夜通し街道を飛ばしサンザーレに入った。
特命の内容は、サンザーレのギルドマスターから特異な冒険者が現れたという報せを受けた統一王朝が『鑑定』を決定したというものだ。
夜中にギルドホールの門を叩き、ギルマスの部屋へと飛び込んだアドルフィーネは、そのままソファに横になり朝日が昇る頃まで仮眠をとり、今に至る。
まあ、まだ地面の上でなかっただけましだ。
アドルフィーネにしてみれば、ソファであっても充分に寝心地がいいものだった。
サンザーレの街壁門を出て、馬を飛ばすこと10分ほどで、目的の小屋が目に入る。
なるほど、まさしく木こり小屋で、こんなところに『英雄候補』が潜んでいるとは世の中の誰も露にも思わないだろう。
ここに来るまでの間、朝早くということもあり、街道をサンザーレ方面へ向かうものは誰にも出会わなかった。
つまり、トールが今日もギルドへ向かうのであれば、まだこの小屋を出ていない可能性が高い。
アドルフィーネは木こり小屋の外柱に馬を繋ぎ、玄関扉をノックする。
「だれだ? こんな朝早くから――」
中から聞こえてきたのは若い男の声だ。といっても少年ではなく、青年だろう。
「朝早くからすまない。こちらも色々と忙しい身なんだ。トール・レイズは君か?」
アドルフィーネはその声に対して扉へ向けてそれなりの音量で応える。
「女? ちょっと待ってくれ、今開けるから――」
中から声が返ってくると、ゴトゴトと扉の内側で音がする。木戸のかんぬきでも外しているのだろう。
ぎぎぃと音が鳴り、扉が外開きに開く。すると、中から、一人の男が顔を出した。
「トール・レイズか?」
アドルフィーネはその男に誰何する。
「ああ、トールは俺だが、あんたは?」
その男が訝しげに答える。
「私は、アドルフィーネ・マインツァというものだ。統一王朝の『鑑定人』だ」
アドルフィーネは即答する。
が、おそらくのところ、『鑑定人』と言ったところで、この男には何をしに来たかわかるまい。
「統一王朝? 『かんていにん』って、なんだ?」
案の定、そうトールが質問を返してくる。
「単刀直入に言う。君を試しに来た。悪いが、少し表に出てきて、私と仕合ってくれないか?」
そうだ。これこそが私の仕事、『鑑定』だ。
『鑑定人』は鑑定対象と仕合い、その実力を見極める。
そうして、その結果を統一王朝に伝えるのが役割だ。
その先は――。
私の知ったことではない。
「しあう――って、戦うってことか?」
トールが応じる。
「それ以外にしあうと言えば、アレしかないと思うが、残念ながら私は初対面の男とそういうことをするつもりはない。急いでいるといったろう? 早くしてくれないか?」
アドルフィーネはわざとらしく揶揄って見せる。男相手だとこういう言い方の方が結果的に早く話が進むのは、これまでの経験から心得ている。
「な!? わ、わかった。少し待ってくれ。そうだな、3分でいい」
「わかった。表で待っている――」
トールは頭を軽く下げると、扉を閉め、数分後、ひとりの女と共に表に出て来た。
青い髪、青い瞳の女――。
なかなかに珍しい髪色と瞳の色だが、異国のものか――。
「付添人のラムディエル――か」
「ええ。統一王朝の『鑑定人』さんだとか。実力は確かなんでしょうね? ウチのトールは、半端じゃないですよ?」
「ほう。それは楽しみだ。最近は「ハズレ」ばかり掴まされているからな。そろそろ「アタリ」を引きたいと思っていたところだ――」
アドルフィーネはそう言うと、馬の背から木剣を二本取り出し、一本をトールに向かって放り投げた。




