第52話 『鑑定人』来たる
トールがマイン・コボルド・ロードを討伐した日の翌早朝。
カイン・ジュダートのギルドマスター室にて――。
「――あいつは、もしかしたら、『英雄』の器かもしれねぇ」
カインが最後にそう呟いた。
ここまでじっと話を聞いていた赤髪長髪の女戦士、アドルフィーネ・マインツァはようやく口を開く。
「『英雄』の器――か。それは楽しみだな」
冒険者の中でも飛び抜けた戦績を上げるものが極まれにだが存在する。
彼らは、『英雄』と呼ばれ、来たる『魔人戦争』の際、『勇者軍』において、将軍・軍団長となる。そして、その中でもっとも統率力に優れ、軍司令として能力が高いものが『勇者』に抜擢され、『勇者軍』を率いることになるのだ。
「場合によっては、統一王朝へ報告せねばなるまい。カイン、トール・レイズはまだ、サンザーレから出ていないな?」
アドルフィーネはカイン・ジュダートにそう確認する。
「ああ、昨日は郊外の自宅兼作業場の木こり小屋に戻っている。今朝もまた、ギルドに来るだろう」と、カインが返す。
「ふむ――。その木こり小屋はどこに?」
「行くのか?」
「ああ、出奔されたら面倒だ。今から向かう」
「気を付けろよ? かなりヤバいやつだぞ?」
「まあ、そうだろうな。パーティ用昇格クエストをたった一人で制覇しただけでなく、そのダンジョンボスまで無傷で切り伏せたのなら、相当の戦闘力だ。ふふふ、そんな男がこんな田舎町のギルドに現れるなんてな――」
アドルフィーネは思わず笑みを漏らしてしまう。
どうにも、こういう性分は昔から抑えられない。
強いやつがいる――。
そう聞いただけで、そこまで出かけては、試合を仕掛け、そういうものたちを散々に倒してきた。
いつしか、自分より強いものに対しての渇望を隠すことをしなくなり、冒険者の間では、『芽摘みのアドル』という忌み名で呼ばれるほどにまでなっていた。
結局、統一王朝に目を付けられ、欲しくもない『英雄候補』の称号を与えられ、『鑑定人』の任を押し付けられた。
まあ、『鑑定人』はこれで、各部ギルド支部から『強いやつ』情報がもたらされることになるから、退屈はしなくなったのだが――。
『英雄候補』を探し出し、統一王朝へ報告する。それが今のアドルフィーネの主な仕事だ。が、副産物として、強いやつと仕合い自分の強さを再確認するという満足感が得られている。
ある意味、自分に一番合っている「仕事」なのかもしれないと、最近はそう思うように心がけている。
「――もし、私が手に負えない程のものが現れたら、その時は、覚悟はできている。潔く負けを認めるさ」
アドルフィーネはそうカインに告げると、ギルド庁舎をあとにして、トールの木こり小屋へと向かった。




