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第51話 旅立ちの日、迫る


「なあ、ラム。どうしたらいいと思う?」


 トールは、木こり小屋のテーブルで食事をとりながら、目の前に座っているラムに問いかけた。

 トール自身は、現時点で自分がそれほど強いとは思えていない。が、今日のギルドマスター、カイン・ジュダートの言葉を鵜呑みにするなら、トールは「異常」な戦績を上げているらしい。


「『英雄』――ですね。まあ、気にする必要はないと思いますよ? 自分のレベルに見合ったクエストを淡々とこなして、強敵相手でも、倒せるなら倒してしまって、どんどん強くなっちゃっていいんじゃないでしょうか。どっちにしても、私たちは「勇者」を目指すのです。この程度の「異常」なんて、微々たるものですよ。それより――」


 そう言いながら、ラムがテーブル越しに身を乗り出してくる。

 青い大きな瞳がトールの目を覗き込む。


「なんだよ?」

「へへへ~。実は今日も新しい特性を獲得したんですよ」


「そうなのか?」

「『攻撃速度上昇』の特性です。マイン・コボルド・ロードから獲得しました。明日さっそく試してみましょう!」


「お前さあ、もしかして俺を使って遊んでないか?」

「え――? ああ、いやぁ~、そんなことないですよぉ~?」


「なんだよその白々しい態度は。まあ、おかげで、今日もそれほど苦労せずに討伐できてるんだし、かまわないけどな。その付与魔法バフって副作用とかないのかよ?」

「う~ん、たぶん大丈夫だと思いますよ。付与魔法バフの副作用って、本体の強靭度によって増減するものですから、トールさんの身体なら問題ないと思います」


 やっぱり、あるんじゃないか――と、トールは思った。

 しかし、ラムの言うように、トール自身、その付与魔法バフによって、痛みや疲労を感じたことは今までにない。

 つまり、トールの身体がこれに耐えうる強さを兼ね備えているということなのだろう。


「木こりの生活も、無駄ではなかった――か」


 と、トールは呟きつつ、トレーの上のパンをかじる。


(とうとう鋼鉄級冒険者に昇格した。そろそろこの小屋ともお別れかもな――)


 そう思って、小屋をぐるりと見渡した。


 この1週間ほど、木こりの仕事は完全に止めている。小屋にはまだ、木こりの道具が出っぱなしだ。しかし、恐らくはもう使うことはないだろう。


「どうしたんですか? 急に黙って――」


 ラムが訝し気に首をかしげる。

 その素振りはあまりにも自然だった。


 こうやって一週間ほど一緒にいるが、目の前の女性がスライムだということを忘れそうになりそうだ。


「――いや、そろそろここともおさらばかなと思ってな」

「そうですねぇ。クラスアップしましたし、いつまでも同じところにいるのも飽きますし――。ギルマスの印象もあまりよくないみたいですし――」


 たしかに、ギルマス・カインの態度からはトールの存在を快く思ってるようには見えなかった。むしろ、腫れ物に触れるかのような感触さえ受ける。


 そもそも、適齢を越えてから始めた冒険者だし、大した訓練も受けていない。そんな男が、ギルドのベテラン勢を押しのけて、ダンジョンボスをポンポンと倒してしまったら、皆、いろいろ複雑な心境になるものかもしれない。


(やはり、出るか――)


 トールはそう決意していた。


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