第5話 スライムの剣
「はあ!? 何言ってんだよ、お前――! 意味の分からないこと言ってんじゃねーよ!」
トールはこんな危機的状況で意味不明なことを言ってくるスライムに対して、怒りのボルテージが最高潮に達する。
ただでさえ腕を落とされ、出血はまだ止まらない上、「逃げ切る」という最後の望みも断たれている。もう何もないと思ったところに、魔物が自分に語り掛けてくるという、もはやただの幻聴、幻覚のようにしか思えない現象にみまわれ――。
『大丈夫! 私に任せて――』
いうなり、地面を這いずりまわっていたスライムがびょんと跳ね、トールの右肘にまとわりついた――。
「うわぁ!! な! くそ、こいつ! 離れろ!!」
『大丈夫です! 私を信じて!』
うねうねと波打つ半透明の水色をした粘体が、徐々に波打つ勢いを和らげて行き、そしてとうとう、それは、腕の形に――。
「なんだ!? う、腕の形になって――。あ、出血も、止まってる?」
『ほら、動かしてみて。あなたの思い通りに動くでしょ?』
言われた通りに腕を振ったり、指を握りしめたりしてみると、確かにトールの意のままにうごく――。
「うご、く? でも、一体どうやって――」
『それはあとで! あと、今からあなたが欲しがっていたものも作りますね!』
「欲しがってたもの?」
『はい。これが欲しかったんでしょう?』
すると、今度は指の先端が波打ち始め、そこから何かが生えてくる。そしてそれはやがて、一振りの剣を象った――。「剣」なら、戦える――!
「剣? 剣なのか? それに、今これを狼に向かって振るえればとそう念じてみたけど、まだ持てている――?」
最後に残った狂狼が、こちらの動向を訝しがって次の行動を躊躇っている数秒の出来事だった。
今、トールの腕は、一振りの剣を握りしめている――。
『さぁ! 反撃ですよ!』
腕の形になったスライムの声はまだ聞こえている。しかし、さっきまで地面にいたはずのスライムは消え失せ、自分の腕には今もなお、剣が握りしめられているのだ。
「よく分からないけど、もう、やるしかない――!」
そう意を決して、狂狼に向かって剣を一振りしてみる、トール。
ぶうんと、その剣が空気を裂き、その剣圧でやや空気が歪んで見える。
しかし、剣を落とすことは無かった。
明かに狼に向けて攻撃の意識をもって振るったのに、だ。
一撃目は狼に命中こそしなかったが、振るえることは証明された。現に今もなおトールの腕の剣はそのままだ。
どころか――。
ぎゃん! という悲鳴に似た声が耳に届く。声の主が目の前の狂狼であることがすぐに理解できた。
よく見ると、狂狼の前足の先が無くなっており、その先端から血液と思われる液体がしたたり落ちているのだ。
「斬った――のか?」




