第48話 カインが見たもの
カインは3階に降りたあと、巡回してまわるが、やはりここも2階層と同じような状況だった。
(完全に駆逐されている――。マジかよ? それに、あの扉、ボス部屋の扉だよなぁ)
カインは少し先に佇む青黒い金属扉を目にする。そして、その扉の異変に気が付いた。
(開いてないか――? おいおい、アイツ、何をやってるんだ!?)
まさか、ここのボス部屋まで飛び込んでしまったんじゃないだろうな――?
恐れ知らずにも程がある。
カインはさすがに焦りを隠せなかった。
ここの『ロード』、「マイン・コボルド・ロード」はその俊敏性、凶暴性により、冒険者ギルドでも『特級』扱いとなっている。
基本的に、適正クラスのパーティでも討伐するのはかなり際どいと見られていて、場合によっては、パーティのうち数名が命を落とすほどだ。
前回挑んだ冒険者パーティは、4人で挑んで、2人しか生還できなかった。しかも、結局逃げ戻っただけで、討伐は出来なかったのだ。
その後、そのパーティは解散し、うち一人はその後ソロ活動を続けているが、もう一人は結局引退してしまった。
カインは、慌てて扉へと向かう――。
近づいた時、なかに二つの人影が見て取れた。が、戦闘の音はない。
扉の位置で立ち止まる。
このボス、「マイン・コボルド・ロード」の特性は、部屋の中に入ったものに即座に突進するということを知っているカインは、部屋に入らず中を覗き込むにとどめる――。
「さあ、これでおしまいだな? じゃあ、もどろう――」
そんな声が聞こえた。
たしか、トールには付き添いの女性がいるとかレイラが言っていた。そいつと話してるのか?
「トールさん、扉の所に誰かいますよ?」
女性の声だ。おそらくは付添人だろう。
カインは、部屋の中にその二人以外誰もいないことを確認しつつ、部屋の中へと足を踏み入れた。
「冒険者ギルドのマスター、カイン・ジュダートだ。実はこちらの受付に不手際があってな。――ってか、『ロード』はどうした?」
トールに向かって問いただす。
「『犬頭』なら、さっき倒しました――」
その男、トールは、事も無げにそう言った。
「たおした――か。だよなぁ。状況もそう言ってる。お前ひとりでか?」
「はい。トールさんひとりで、です。私はただの付添人です」
今度は女の方が応じる。
「ダンジョンに女連れとは――」
「違いますよ? 私はトールさんのアドバイザー兼ガイドです。トールさん、結構方向音痴なんですよ。それで、私を雇ってるんです」
「お前は?」
「ラムディエルです」
「ラムディエル、お前も冒険者なのか?」
「いえ。私はただのガイドです。冒険者はトールさんだけで私は手を出していません」
「そうか――。まあいい。帰ったら階級証を見せてもらおう。それでわかる」
「ですね。ここにいても、もう『ロード』の死骸は消失してしまってますしね。本当に倒したかどうか証明しようもありません」
そんな会話をした後、カインはもう一度部屋を見回す。
確かに、床に微かだが、戦闘の痕跡が見て取れた。だがそれだけでこいつらがやったという証拠にはならない。
「先に戻る。気を付けて帰ってこいよ?」
カインはそう言い残すと、身を翻し歩みはじめた。
(くそっ! 何も見極めが出来なかった――。しかし本当にアイツがやったとしたら、これはとんでもないやつが現れたかもしれん――)
さて、どうするか――。
カインはそんなことをつらつらと考えながら、帰路についた。




