第40話 『勇者』のその後
ラムが公理教会の存在に懐疑的であることを、トールは理解している。
そもそも、ラムはスライムであり、魔物だ。
自分たち魔物を滅ぼさんと敵視するものに否定的な見方をするのは自然なことである。
今ラムが話している内容について、トールはその事実を全く知らない。
自分が見ていないものを、ただ誰かが言っているというだけではにわかに信じることは難しい。
しかし、ラムの言っていることは、筋が通ってはいる。
あとは信じるに足る『確証』があればというところだろう。
「トールさん。『勇者』のその後の話を聞いたことがありますか?」
「魔王軍を滅ぼした後ってことだよな? いや、結局のところ、忽然と姿を消し異世界へと旅立ったとだけしか聞いたことがないな」
「ですよね。実は『勇者』に掛けられる付与魔法には恐ろしい副作用があるのです。魔王軍を滅ぼした『勇者』は、徐々にその付与魔法によって蝕まれてゆき、激しい痛みを伴いながら、急速な老化現象を引き起こすのです。しかも、それは場合によっては十年以上も続くのです。最後には、意志の疎通もできなくなります。教会はこの事実をひた隠すために、事が済んだ『勇者』を、早期回復の為という口実で『幽閉』するのです」
「それを少しでも早く終わらせるために、お前は『勇者』を取り込んできたとそう言うのか?」
「――意思に反してはしません。本人にその意思が在るかは事前に確認します。初めのうちはその事実を受け入れられない者もいました。ですが、症状が進行するにつれ、私の提案を受け入れてくれるようになりました。私がその者を送るのは、本人が「もういい」と言った時か、意志疎通が出来なくなった時と決めていました。中には間に合わず、死んでしまった後ということも何度かありました」
「間に合う?」
「はい。『勇者』を取り込むにはこちらにも準備が必要なのです。なんてったって『勇者』ですからね。そう簡単ではないのです。それについての詳細はまた話すこともあるでしょうが、莫大な魔力量が必要だとだけ言っておきます」
ラムはそう言った後、視線を少し落とした。
おそらくは、話しては見たが、信じられるものではないだろうという諦めもあるのだろう。
「話はわかった――。それで? 俺が『勇者』になるとして、それを回避する方法はあるのだろうな?」
トールは伏し目がちなラムに向かってそう言った。
ラムは少し驚いたように視線を上げて返す。
「信じてくれるのですか?」
「いや、今の話を鵜呑みにするわけにはいかないけど、もしお前の言っていることが本当なら、俺は『勇者』になることを考え直さないとだろ?」
「そうですね! それについては大丈夫です。冒険者登録の時のことを覚えていますか? 審査官の審査をパスしたのと同じような方法で、教会の付与術師の付与をかわすことができます」
「でもそうなると、俺は魔王軍を倒せなくなるんじゃ――」
「トールさん。付与魔法に頼らなくても魔物を蹴散らせるぐらいに強くなればいいだけの話です。あなたにはその可能性があります。だからあなたを選んだのですから――」
「どういうことだ?」
「それも、そのうち自覚する日が来るでしょう。彼女もそうでしたから――」
「彼女?」
「ええ。『暁の英雄』カーラ・レッドライン。知っていますか?」
「『暁の英雄』!? 数百年前の大英雄じゃないか! ラムは彼女に会ったことがあるのか!?」
トールは思わず腰を上げた。




