第4話 あなたの腕になります
(まさか、一撃で――!?)
トールは、あまりの出来事に正気を失いかける。
痛みに耐えきれず、腕を抑えるが、もちろんすでに腕はない。
右腕の肘から先の部分が完全にもぎ取られてしまい、おびただしい出血と痛みに気がおかしくなりそうだ。
(――痛い、痛い、痛い!!)
なんとか残った左手で右ひじを抑えながら、腕をかみちぎった狂狼を凝視する。
狂狼はその口にトールの腕を咥えていたが、おもむろにそれを落とすと、再び食いつき、バキバキと噛み砕き始めた――。
(俺の腕が、食われている――!!)
トールはあまりの恐ろしさに足に力が入らなくなりそうだが、かろうじて正気を保つよう自身を奮い立たせた。
(くそうっ! 腕をもぎ取られるなんて! でも、俺の腕に集中している今なら――)
逃げられるかもしれない――。
幸い、2匹目の狼もトールの一撃で絶命したようで、転がったまま動かない。
だが、最後の一匹を相手にするのに、利き手を失ったトールにはなすすべがないことも理解している。
(に、逃げるんだ!!)
足に力を込めて立ち上がると、狼に背を向け、一目散に駆けだす!
追い付かれたら――。
今度こそ完全に終わる。
そんな予感がひしひしと背中に襲い掛かる。
走れ! 走れ! 走れ!!
足に力は入っている。大丈夫だ。走れる!
森を出て、街道にまで行きつけば、誰かが往来しているはず――。そうすればまだ望みはある!
――その時、背筋に悪寒が走った。
(はっ!? よけろぉ!!)
トールは慌てて地面に転がり込む。そして態勢を立て直して再び立ち上がろうとしたその時、トールの目前に血まみれの口を大きくあけた一匹の狂狼が立ちはだかった。
幸い、背中からの攻撃はなんとか躱せたようで、追撃を食らうことはなかったが、目前に狼が立ちはだかり、こちらも動きを止めてしまった。
(くっ! これまでか……)
「せめて――剣が使えれば――」
くそ、今さらだな……。ああ、父さん、母さん、ごめんなさい――。
『まだあきらめちゃ、ダメです――!!』
どこからともなく、女性のような声が聞こえてきた。
いや、聞こえたのではなく、頭の中に響いた、のか?
「誰だ!? どこから――!?」
『ここ! 足元です!!』
足元? そう言われたトールは足元を見下ろした。
「す、スライム!!? お前、まさか!?」
『さっきはすいません!! 私も魔力を回復するまで時間がかかって――。でも、まだ生きてますよね?』
「生きてるって、腕を見ろ! お前のせいで、こんなざまだ!」
もう散々に『後悔』や『絶望』を突きつけられたトールの心は、『怒り』以外に正気を保つ術がない。
『ごめんなさい! 剣があれば――って言ってましたよね? どうして持ってないんです?』
「詳しく話してる時間はない! とにかく、俺は、武器が装備できないんだ!」
『武器が装備できないですって?』
「ああ、「呪い」なんだよ! うわぁっ!!」
そんなことを話してるとき、狂狼が飛びついてきた。トールは慌てて、地面を転がり、よける。
『呪い、ですか。まあ、よくわかりませんが、武器じゃなければ、装備できるんですよね?』
「あ、ああ、木こり斧とかなら使えるけど、武器として使おうとすると、持てなくなるんだ――」
『分かりました! じゃあ、わたしがあなたの腕になります!!』
そのスライムはそう言った。
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