第39話 公理教会の目的
「私はこれまでに数々の『勇者』を送ってきました。前に私はトールさんに過去の勇者について話していますよね?」
そういうラムの質問に、トールは一週間ほど前のラムとの会話を思い起こす。
確かラムはこう言っていた。『彼らは魔物を殲滅することしか考えない者たちだった』と。
それが故に、話し合いにならない者だから、取り込んでしまったと。
つまり、ラムが言いたいのは、聞く耳を持たない者だから話し合いなどできず、平和的な解決は見込めない者たちだから殺してきたということだ。
しかし、本当にそれは正しいのだろうか?
トールは、この目の前にいるラムがただそれだけの理由で人を殺すようなものには思えなくなってきている節がある。
「話が通じない者とは協議が出来ないから、平和的解決に至らないとか言ってたな――」
と、トールは返す。
「ええ。実際、魔物と幻族を同一視して人族とは相容れないものという認識を持つものばかりでした。ですが、ひとりだけ、そうではない者もいたのです」
ラムはそう言うと少し視線を上げて、中空を見つめるような仕草をした。
トールには、それがどこか悲しげな様子に見えたのだが、再び視線が戻ってきたときには元の意思の籠った目に戻っていた。
「――残念ですが、すでにその者も送らなければならない状態でした」
トールは今の言葉にラムの無念さを感じた。やはり、『勇者』を取り込んできたのには、自分が『勇者』になる可能性を追求してというだけではないように見える。
「ラム。もうそろそろすべてを話してくれてもいいんじゃないか? 俺にはどうしても、お前が自分の欲や利益の為だけで人を殺すような奴には思えないんだ。『勇者』を送ってきたのには何か理由があるのだろう?」
トールはラムの視線から目を逸らさず、真っ直ぐにみつめたままそう言った。
ラムもまたその視線から目を逸らさず、じっとしばらく押し黙っていたが、ついに口を開く。
「トールさん。公理教会が全ての元凶です。先ほども言った通り、公理教会は魔物と幻族を同一視するように教義を整え、幼年学校からそう子供たちに教育します。これは、なぜだと思いますか?」
トールは、これまでのラムの話をもう一度頭の中で反芻してみる。
もし仮に、ラムの言っていることが全て真実だったとすれば、公理教会の目的は――。
「自己利益のため――か。人族と魔族の対立を生み出すことで、「魔人戦争」の必要性を唱え、対抗する手段である『勇者』や『英雄』、「冒険者」の育成の為と言って、人民から税や寄付を集める――それこそが目的だと、お前は言っているのだな?」




