第30話 ダンジョンは『国』である
翌日からトールは、自階級クエストの、『フォレストホロウ洞窟の子鬼掃討クエスト』を受注し、その上で、奥へ奥へと進んでゆくことにした。
自階級クエの対象はあくまでも「子鬼」であり、「子鬼リーダー」や「子鬼バーサーカー」、「子鬼メイジ」などは上位階級の『鋼鉄級』対象である。
だが、適正階級を無視し続け、遭遇した魔物たちを全て打ち倒しながら、日を重ねるごとに少しずつ奥まで進めるようになると、フォレストホロウ洞窟の探索を始めて5日目には、とうとう最奥部にまで到達してしまった。
しかし、トール自身、ここまで来る間に、何もしてこなかったわけではない。
もちろん、剣術、体術、戦術など、戦闘に関する日々の修練も意識してきたが、それより、冒険者ギルドにいる先輩冒険者や受付嬢のレイラさんからこの洞窟の情報を収集したりすることも怠らなかった。
「――ここが最奥部、ボス部屋か……」
最奥部に佇む黒い大扉。
この扉の向こうに、この洞窟のボス、『ゴブリン・ロード』が待ち構えている。
「前回の討伐記録は、約3年前ですね。その冒険者は現在『黄金級』にまで昇格しているらしいですよ」
と、ラムがトールのすぐ後ろで応じた。
この、『ダンジョン』という場所は一種の『王国』なのだと、前にラムから聞いている。
冒険者ギルドとダンジョン――。
この二つは切っても切れない関係にある。
人族たちが来たるべき『魔王軍』の襲来に備えるために、『英雄』や『勇者』を輩出する目的で、広く一般から魔物を掃討する傭兵を募る機関、それが「冒険者ギルド」だ。
これに対して、『魔王軍』を編成する際の軍団兵養成や、魔王選定戦を行う『魔将』を輩出する目的で世界各地に存在しているのが『ダンジョン』であるらしい。
『ダンジョン』には魔力が充満しており、日々、新しい個体が生み出され、その中では魔物同士の骨肉の争いが展開されている。しかし、ひとたび人族が侵入してくると、その排除が魔物たちの最優先任務となるらしい――。
つまり、人族が侵入していない状況において、『ダンジョン』内で行われているのは、その『ダンジョン・ボス』――いわば『小さい王国の王位』――の地位争いであり、このボス部屋に居座っているのが、『現在の王』なのだ。
この『ロード』と呼ばれる個体の戦闘力は言うまでもなく強力だ。
なにせ、このダンジョンという小国の全ての個体から命を狙われ続けていながら、なお生き残れている個体なのだから。
もちろん、怪我などすればそれが命取りになるような状況下で生き抜いてくることがいかに困難であるかなど、想像に難くない。
おそらく『ロード』は、生まれ出た時から今の今まで、一度たりとも「傷を負ったことがない個体」である可能性もあるのだ。
「新『ロード』になる為には、先代『ロード』を殺さねばなりません。ただ、この『ロード戦』だけは、1対1で行われた後、勝者が確定すると、専門の治癒術師がこれを全開させ、次のロード戦や人族の侵入者に備えるわけです――」
と、ラムが説明を締めくくった。
つまり、今この部屋の中にいるのは、このダンジョン内で最強の魔物であり、かつ、微塵も傷を負っていない完全無欠の状態だということになる。




