第3話 木こりの戦闘
トールの正拳が、狙いすましたように一匹の狂狼の顔面にヒットした。
初めから目をつけてはいたが、やはり足のどこかを痛めていたのだろう。トールの突然の行動に、その狼は対応が出来なかった。やや身を縮こまらせただけで、その場から動かなかった狼に、トールの正拳が見事に命中。
狼は、ぐらりと身を揺らせてその場に頽れた。
そして、そのあと数度痙攣してみせたが、すぐに動かなくなってしまった。
(取り敢えず1匹――。あと、2匹――)
武器が使えないとわかった時から、トールは体術の修練を行ってきた。今こそその成果を最大限に発揮する時だ。
もちろん、特定の師に付いたわけではない。
トールは「木こり」なのだ。
仕事の合間合間に、自己鍛錬で鍛えてきた体は、全てオリジナルの産物だ。
しかし、狼程度の大きさなら、命中しさえすれば、それなりにダメージを与えることができると、今、証明された。
(いける――。いや、やらなきゃやられるんだよな)
トールを囲む2匹も一度は躊躇したように見えたが、再度体制を低くして身構えている。
どうやら、仲間の死に遭ってもなお、食欲の方が上回ったようだ。
(本能――か。知性があるかは知らないけど、怯んで逃走してくれるとか、ないんだな……)
トールもまた、緊張を高めて構えをとる。
2匹は今、トールの正面に並んでいる。出来れば、この動いていない間にもう1匹仕留めたいのだが……。
そう思った瞬間に、狂狼が駆け出した。
1匹は右へ、もう1匹は左へと、トールを囲むように円を描き走り始めたのだ。
(――知性はそこそこ高いのかよ。なら、逃げてくれてもいいだろうに!)
トールは心の中で悪態をついたが、どうやら、狼たちには『計算が建った』のだろう。
不意を突かれて手負いの仲間を失いはしたが、それはそいつが弱かっただけに過ぎない。今いる2匹は両方とも無傷だ。それに、戦闘態勢も整え、この人間の「実力」もある程度理解した。その上で、「勝てる」という計算なのだろう。
(とにかくあと1匹――)
2対1ならさすがに分が悪いだろうが、リスクを冒してなんとかあと1匹倒すことができれば、勝機が見えてくる――。
(いくぞ!)
トールは意を決して、自分の正面に左から入って来た1匹に狙いを定めて突進する。
おおお! っと雄たけびを上げ、気合を込めて正拳を繰り出した――。
がしいい! という衝突音が、キールの体を突き抜ける。
手ごたえは十分だ。これならかなりのダメージを――。
(え――?)
そこに突然、自分の右側から、黒い影が視界に飛び込んでくる。そしてその影は、今突き出しているトールの「右腕のあった場所」を、「通過」した――。
一瞬のことだった――。
こいつは「この瞬間」を狙っていたのだ――。
――ぐわああっぁああ!!
強烈な痛みがキールの「右腕のあった場所」から全身へと駆け抜ける。
トールはその痛みに耐え切れずに、悲鳴に似た叫び声をあげた――。




