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第29話 『英雄』の苦労


 ラムの説明には納得するところが多かった。


 冒険者や戦士にはごく稀にではあるが、非常に才能を有したものが現れることがある。

 いわゆる、『英雄』と呼ばれるものたちの多くは、その実績の初めから、特異な成績を収めていくものが多い。


 現在二人だけいる『金剛級ダイアクラス』冒険者の二人も、その冒険者経歴の初めから、類い稀なる成績を収めてきた者たちであった。


 もちろん、稀有な才能を有するがゆえに、初めの頃は素直に周囲の者に受け入れられ難く、その経歴の初期の頃は二人ともなかなかに苦労したらしいと、ラムは言う。


 ところが、そんな時期はそう長くは続かない。

 結局は、結果こそが全ての世界だ。

 彼ら二人が収める成績は、同等階級の者たちを遥かに凌ぎ、あっという間に、昇格試練クエストを踏破してゆき、他の者の追随を許さぬうちに『金剛級ダイアクラス』にまで駆け上がったのだ。

 

「結局は、実力を示し、結果を残せば、そう言った詮索など、全く歯牙にかける必要すらないのです――」


 そう、ラムは言った。


 この「ラムディエル」というスライムが、どれほどの時間を生きてきたのかはわからないが、その言葉には、まるでその目で見て来たかのような『リアルさ』と『ねつ』があった。


 確かに「冒険者の世界」は力、結果、実績が全てである。


 どれほど優秀だと噂されても、結果を残せなければ、階級の昇格はない。

 逆に、どれほど愚鈍だと見られても、結果を残せばその結果通りの評価を受けるのが、「冒険者」だ。


 それが故に、冒険者はモチベーションを高く維持し続け、更なる高みを目指して挑戦し続けることができるもののみが生き残る。

 でなければ、自身の不甲斐なさに泣き、心折れ、失意に暮れ、緊張が緩み、あるいは過緊張し、良くて大怪我、場合によっては命を落としてしまうだろう。


「――そうだな。むしろ、加減をしてやっていくことの方が困難だ。それに、結局は命のやり取りを毎日やる中で、そんな余裕など見せていられないのが実情だ。常に全身全霊をもって目前の敵に立ち向かわねば、足元を簡単にすくわれてしまう。今日の戦闘もそうだった。ほんの少しの気の緩みが、自信の欠落が、命取りになるのだから――」


「わかれば、なんてことはない話です。大丈夫です、トールさんなら。私が言うんですから間違いないですよ。なんたって私、これまでに何人もの『勇者』や『英雄』をこの目で見てきたんですから――」


 そう言って微笑むラムは、こいつがスライムだなんて誰が想像できるだろうかと思うほどに自然で、人間と何も変わらない。


「なあ、ラム。お前、元人間だった過去とかってあったりしないよ、な?」

「私が、人間? そんなことは無いですよ。どうしてそう思ったんです?」

「いや、あまりにその格好が自然だから――」

「あ、ああ、そういうことですか。人間ではなかったですが、人型には普段からよく変身してましたからね。この格好の方が、お話ししやすいじゃないですか」

「まあ、そうだな――。スライム(あっち)の格好よりは話しやすいかもな――」

「そうでしょう?」


 たしかに、頭の中で念じれば伝わる関係だとは言っても、そうなると、いつも頭の中を覗かれているようで少し気分がよくない――。

 こうして言葉を交わす会話の方が自然で心地いいと言える。


『ですよね。なので、極力こちらで話すのは控えることにします――』


 ラムの声が頭の中に響いた。


『いや、だから、頭の中を覗くなって!!』


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