第26話 ラムの思い出②「『勇者』アリオー・クルセイド」
『――来たね、ラムディエル。待っていたよ。ようやくその時が来たんだね。僕が《《使命》》を達成してからちょうど10年――。今日は10回目のヴェルの命日だったね。充分に僕の方も準備が出来ている。早く行ってやらないと、だ……』
そう言って、『勇者』アリオー・クルセイドは静かに目を閉じる。
『抵抗、しないんだね?』
と、ラムディエルは問いかけた。
『君には勝てないって知っているからね。それに、言ったろう? ヴェルが待ってるって――』
『そう――。ならせめて、一瞬で送ってあげる』
『ああ、そうしてくれ。痛いのには慣れていると言っても、嫌な事には違いない――か……ら……』
そうして『勇者』アリオーは「旅立って」いった。
ラムディエルは一人になった部屋を見回す。
世界を破滅から救った『勇者』の部屋にしてはあまりに質素な部屋だ。
もともとアリオーは農夫だったと聞いている。
彼は、『勇者』になり、『魔王』を打ち倒し、『魔王軍』を壊滅させ、ふたたび「凪」を到来させた。
『魔王』を倒してから10年――。
とうとう、今、その時が訪れた。
『待たせて悪かったね、アリオー。向こうでヴェルに会ったら、ラムディエルはまだ元気にしているって伝えて――』
ラムディエルはそう、部屋の中空に向かって告げると、その部屋をあとにした――。
******
あれから、もう裕に600年ほどが過ぎてしまった。
その間、ラムが「送った勇者」は5人――。
だが、その5人は、いずれもラムの期待に応えられる者たちではなかった。
だからラムはこの出会いに感謝しているのだ。
この『英雄の萌芽』という素質をもつ元「木こり」の青年は、未だに「覚醒してはいない」。
もしこれからのいくらかの年月の中で、トールとの間に信頼関係を構築することができれば、もしかしたらラムの期待に応えられる人物へと成長してくれるかもしれない。
そうなれば、ラムの想い描いている未来を切り拓くこともできるかもしれない――。
その可能性は、「充分にある」と、言える。
「ラム、干し芋はもういいのか――?」
と、トールがこちらに伺いを立てる。
「はい、充分です。続き、やりますか?」
と、ラムが応じる。
「ああ、もう少し、頑張ってみるかな。だいぶんとコツを掴んできたからな。もう少しやって完全に習得しておきたい」
トールはそう言うと、ゆっくりと腰を上げる。
「ラム、悪いな。もう少し付き合ってくれ」
「ええ。どうぞ、気が済むまでやってください。時間はまだ《《ゆっくりと》》ありますから――」
トールの気づかいに、そう応えるラム。
そうだ、トールが「英雄に覚醒する」までには、まだまだ時間がかかるだろうから――。




